川の記憶。水の記憶。
紀の川水系の支川、橋本川が運搬作用により土砂を堆積させた。紀の川との合流地点、紀の川右岸に大きな中洲がある。一度、堤防から降り立つと紀の川の下流に向かって望む様は、ここが紀の川の川の中であることを忘れてしまう。かつて橋本橋の上流では、前畑、古川、小島のオリンピック選手をはじめ幾多の子どもたちが、過去にこの紀の川で泳いだのであろう。この紀の川で、うなぎを取るために子どもたちは、竹を編んだうなぎの仕掛けを作ったという。その仕掛けのできの良し悪しが、子ども達の生きる勲章であった。仕掛けは、川底に仕掛けるために潜り、高い岩場から飛び込み、子どもたちは川の記憶を体に刻むため泳いだのであった。
六月になると雨が橋本川に霧状に降り、西からの午後の黄に色づいた光が紀の川との合流地点である古東橋に大きな虹の橋をかける。子どもたちは、それを追いかけ掴もうと虹の霧の中に体を投げ込む。
そんなことに構いもせず、大和の国から紀の国に入ると吉野川から名前を変える紀の川は、無尽蔵に豊かな水を絶え間なく流し続ける。左に曲がり次に右に曲がり、遥かなる河口へ、海へと流れ出でる。
かつての川の記憶が薄れないよう、一度、紀の川の川辺に出てみよう。川辺に降りると、紀の川の中で鳥が鳴き、悠々と滑空する姿を見ることができる。橋本には、水辺という財産がある。一度、川辺に降りて夏の涼しさを感じ、水に触れてみると、水の記憶が、川の記憶を呼び覚ます。