オープンソースを使って組み合わせて、急ごしらえ

市役所のICT担当者は、情報展開のリーダーであるという自覚と行動が必要

多賀城市は仙台からJR仙石線で20分の距離にあり、海に面した部分は仙台塩釜港の岸壁と砂押川河口のわずか300mに過ぎない。2011年3月11日そこへ、7mの津波が押し寄せた。多賀城市の内陸でも高さ2mから4mという津波が到達し市内の約3分の1が浸水。死者188名を数える。

 

多賀城市総務部総務課の田畑裕一氏はICTを担当している。幸い庁舎の被害は軽微であった。しかし 、すぐさま停電したためICT担当としては何の確認作業もできなかった。

 

4月1日から市役所に被災者の相談窓口を開設することになった。ICT担当者はそれに対応できる情報システムが無いことに気づき、焦った。これが無いと相談窓口に来る度に相談内容を最初から聞くことになりかねない。対応状況の管理もままならない。

 

窓口開設までに猶予はわずか5日。まずは藁をもつかむ思いで使えるシステムがあるかどうかを探す。阪神・淡路大震災の際に西宮市で作られたシステムなどがあることが分かる。しかし、よく調べると相談窓口の記録用としては利用が難しい。

 

 

「無いなら作るしかない!」と思った。イチから作るのは到底無理であるから、オープンソースのアプリケーションを使ってサンプルソースを組みあせて、急ごしらえした。窓口開設直前に『被災者管理システム』ができあがった。そして住民基本台帳のデータを取り込み、運用テストし、マニュアルも作って稼働にこぎつけた。

 

システム開発に成功した背景には、それが可能な人材が市役所にいたからだ。多賀城市にITに関する民間実務経験者という採用枠があって、3年前と去年に技術者を採用したことが功を奏することになった。震災が起こることを予期して、このような採用をしていたわけではないが普段の業務だけでなく非常時にも貴重な戦力となることが示された。

 

役所における情報通信装備の見直しも必要であることがわかった。情報通信キャリアの基地局が被災すると通信が完全に遮断してしまう。そこで、衛星電話や衛星インターネットを装備しておく必要がある。さらに住民データの遠隔地でのバックアップや庁舎内ネットワークの一部無線化も必要だ。災害時に活用できる安否確認システムなど、他にも必要なものはたくさんある。

 

田畑氏は言う「市役所のICT担当者は情報展開のリーダーであるという自覚と行動が必要である。情報化の対応部署が何をすべきか、使命は何かをはっきりさせておくべきだ。必要な人材がいて、日頃から非常時を想定した訓練をしておく必要がある」と。

 

・宮城県多賀城市ホームページ

http://www.city.tagajo.miyagi.jp/

・公開セミナー「東日本大震災と自治体ICT」のホームページ(田畑氏のセミナーでの発表資料)

http://www.city.sendai.jp/shisei/1201134_1984.html

 

(取材日:2012年2月1日 ネットアクション事務局 新谷隆)

 

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