2012年‎12月22日竹芝桟橋を出帆 父島を目指した。

 

小笠原丸は出航のとき、船はバックで出て、回転する。桟橋の大きさ、港の広さの関係で、頭からしか入られない為だそうだ。島のおじさんが楽しそうに技術的な解説をしてくれるが、ほとんどよくわからない。でもそうなんだ、そうだなと真剣に相槌をいれる。もうこの島のもてなしが始まっている。

 

「25時間以上の船旅をしたことはありますか?」

 

大丈夫かなあと脅すような言い方。脅しているのではない。心配してくれているのだ。
それを超えないと、島には行けないんだよと微笑んでいる。ここで島に行ける人と行けない人の篩がかかるんだな。

 

船のサイドのスクリューが作り出す渦に、カモメがダイブする。そこに魚がいるわけでもなさそうだけど。レインボーブリッジをいろんな角度で観ることになる。誰に手を振っているのか分からないが、桟橋で両手を振る人、水上バスの客もこっちに手を振っているのでつられて手を振る。

 

東京湾を出る迄は、築地から差し入れられた旨い刺身を食べながら、酒を酌み交わし、楽しい時間を過ごす。昼飯に島塩ラーメンを食べたら旨かった。

 

昼の満腹のあとは朝からの酒にもやられて起きてられない。一等の部屋に戻り、あっという間に眠ってしまった。トイレはウォシュレットが付いていて気持ちいいので助かる。嫌な匂いもない。 

 

 

 

昼過ぎ、館山を超えたらさすがに真冬の低気圧を目指す航海はすごいうねり、霧が出て幻想的だった。

 

 

また眠る。目が覚めると、15時を回った頃か。これで10時の出帆から数えると5時間を経過している。伊豆大島、三宅島、御蔵島と順番に船の右側に島影を観ながら、甲板で潮を被る。慌てて部屋にもどる。連れの電話が鳴って、なにやら打ち合せをしている。三宅の島の電波が繋がったようだ。

 

そして、また眠る。波を思い浮かべて揺り籠でゆられるように、海に抱かれるように。

 

18時に目が覚める。2時間はぐっすり眠ったようだ。

 

19時にごろか。食堂に行くとカレーのいいにおいがした。この時間帯は八丈島の電波が入って、みんな家族と電話している。

 

そして、また眠りについてしまう。

 

船酔いをするのは目の情報と身体の平衡感覚の情報がずれるからだと聞いた。ならば、水平線を眺めて揺れを正確に感じるか、ベッドに入って波を想像するのがいいのだという。

 

波の揺れを想像しながら、横になっているとあっという間に眠りに落ちてしまい、目が覚めた時もまだ揺られているのが妙な安心感を覚えさせる。24時前に一度目が覚める。時折、大波に激突するような揺れがあるので、トイレに行くのも止めておこうと思ってまた眠る。トイレで転んで怪我をした人がいると聞いていたから。

 

 

 

 

次に眼が覚めたのは、朝食の放送だ。6時。

 

レストランとスナックがあって、スナックはわりと長い時間営業してくれている。レストランでは、生地は冷凍とかだろうけど、クロワッサンを船内で焼いて出してくれる。卵、納豆、炊きたての飯と味噌汁にほうれん草やヒジキ、きんぴらごぼう等の小鉢、目玉焼き、焼き鮭、塩鯖、シラスおろし、たらこ、出汁巻、と好きなものを選んでいたら2,000円近くも食べることになったが、立派なサービスだ。

 

ぐらんぐらんに揺れていても、乗客はもりもり飯を食っているし、船員はにこにこ働いている。

 

「平気なの?」

 

「はいっ!もっと酷い時もあるんですよ。汁物お出しするの大変ですけど」

 

 

客がトレーをもって立ち往生していると、船員が「はーい」とニコニコ、トレーを持ってテーブルに運ぶ。僕たちは「すげー」と拍手する。

 

 

 

 

「揺れますね」連れが隣のテーブルに声をかける。

 

「島の人間だけど、こんな揺れのときは乗ったことがねえや」と笑顔でいいながら、普通に飯を食っている。

 

寝不足が続いて、体調を壊していた連れがいう。「沢山寝たら元気になった」

 

僕が不覚にも戻してしまった後片付けを全部してくれたのが有り難かった。すごい優しくてビックリしたのだが、すまん。戻したのは船酔いじゃないんだ。島の人と話して楽しくて、つい飲み過ぎた。飲み過ぎて戻したから、そのあとはすっきりさっぱり、また元気になってしまった。そんなに優しくしなくていいよ。また、愛情が深まるじゃないか。

 

しかし、飲み過ぎて戻すなんて、学生以来か?帰りは酒を控えるよ。

 

波の揺れに抱かれて26時間、どこまでも、この揺れが続いてもいいと思うくらい、のんびりと寝倒す旅だ。歳をとって普段4、5時間寝れば十分になっていた身体が若返るように都合20時間も寝倒すのだから、不思議な体力を貰った。4日分の睡眠を貰って休暇明けのような朝だ。

 

「だって、いくら寝てても誰にも文句言われないんだもの」と島のおじさんが嬉しそうにいう。飛行機ならファーストクラスの旅だな。

 

 

聟島が見えた。

 

 

 

小笠原が近づくと、晴れてきた。デッキにたつと穏やかな気持ちになる。トビウオの青い美しい背中に見入っていると、カツオドリがトビウオを追いかける。失敗して、また舞い上がる。そしてまたダイビングする。子どもの歓声があがる。自分も大声だ。遠くでザトウクジラが跳ねる。

 

暑いくらいの陽射し。カツオドリってなんでカツオなんだ?トビウオは何でわざわざ飛ぶんだ?

 

 

 

接岸直前。子どもがはしゃいで大歓迎しているのが分かる