はじめに

紀伊半島南西海岸付近に位置するみなべ町は梅干しの最高級品として知られる南高梅の産地である。みなべ町では世界農業遺産に指定されているみなべ・田辺の梅システムという栽培方法を行っている。このシステムはみなべ町の梅生産において非常に重要なものであり、みなべの梅を紹介するのに欠かせない。そこでまず最初にそのみなべ・田辺の梅システムについて説明しようと思う。そのあとに南高梅とその歴史について触れていく。

みなべ・田辺の梅システムとは

みなべ・田辺の梅システムとは、400年ほど前より受け継がれてきた持続可能な梅を中心とする農業システムのことであり、2015年に世界農業遺産に認定された。この梅システムでは元々自生していた薪炭林を残しつつ山の斜面に梅林を配置することで水源涵養や崩落防止などの機能を持たせることや、梅の花の受粉における二ホンミツバチの利用や里山の自然環境の保全によって豊かな農業生物の多様性を維持しているということが特徴である。みなべ・田辺の梅システムの仕組み

薪炭林は和歌山県の特産品である紀州備長炭の原材料であるウバメガシを主にして構成されている。このように薪炭林は土の中に雨水をため、山崩れを防ぐ他にも紀州備長炭の原材料としても活かされているのだ。またこのシステムは持続可能な農業システムとしての側面もあり、この地域では多様な生態系が保たれている。薪炭林や梅林の様々な鳥やため池に暮らす生き物、千里の浜のアカウミガメなどの自然や生き物が良い関係を保ちながら生息しているのだ。

みなべ地域の梅生産について

みなべ・田辺地域の梅生産の規模は非常に大きく、栽培面積は4,170ha、生産量50,000t(2016年農林水産省統計)であり、これは日本国内の50%以上の生産量を占めるほどのものである。そのためこの地域は日本一の梅の生産地とされているのだ。また1965年に地域の統一品種として選抜された南高梅は梅干しの最高級品として知られ、日本の梅を代表するトップブランドである。

この地域の梅の生産農家さんのほとんどは収穫した梅を白干し(収穫した梅を水洗いし塩漬けにした、昔ながらのしょっぱい梅干し)にする一次加工まで行う。加工業者も南高梅の特徴を熟知しているため、地域の生産農家と加工業者は密接な連携を取れているのである。

白干しされた梅

みなべの独特な梅の収穫法!

斜面で栽培するみなべの梅。実はその収穫方法は一風変わっている。それは青いネットを梅の木の下に張り巡らすことで梅が地面に落ちた際に傷つくのを防ぐためである。このネットが青い理由として紫外線に強く、目立つ色であるからだと梅の生産農家の方は語った。青色にすることで長持ちすることや作業中に見やすいということがメリットであるとのことだった。このネットを互いにつなげるときに使われるものは意外なもので、なんとつまようじや竹串を使っているという。付け外しするときなどに非常に楽であるからだそうだ。また、梅のコンテナは梅が入ると重量が20㎏にもなることから収穫時には写真にもあるそりのようなものにコンテナを乗せてネットの上でそれを引っ張るという。この方法を使うことで女性の方でも比較的楽に運搬が可能になるのだ。ちなみに小道具として紐式の草刈り機と枝切りばさみがある。

斜面に生える梅の木と収穫用のネット

ネットに滑らせるそりのようなもの

               左が紐式の草刈り機    右が枝切りばさみ  

梅は健康に欠かせない!その理由とは?!

さて、今まであなたは梅は健康に良いと聞いたことはあるだろうか。実は梅には様々なメリットがあり、現在注目されている食材の一つである。その理由を挙げていこうと思う。

①高血圧の予防に!

梅にはカリウムというミネラルの一つが入っている。それは体液の浸透圧を調節して一定に保つ働きを持っているのだ。また、ナトリウムを身体の外に出す手助けをする作用があることから塩分の摂り過ぎを調節するのに役立つ。

②抗酸化作用も!

植物に含まれる黄色やオレンジ色の色素成分であるβカロテンは体内でビタミンAとして働き、抗酸化作用がある。

③インフルエンザの感染予防に効果アリ!

梅には多くのポリフェノールが含まれており、その中でも近年発見されたエポキシリオニレシノールはインフルエンザウイルスの増殖を抑制することが明らかとなっている。

④高血圧や食中毒、骨粗しょう症の予防、血液浄化作用や疲労回復にも最適!

梅に含まれるクエン酸は血小板凝集を抑制し血流が改善される可能性が示されているほか、クエン酸には強い殺菌力があることから黄色ブドウ球菌や病原性大腸菌の増殖を抑制し、食中毒などの防止につながる。また、クエン酸は日常生活や軽い運動後の疲労感を軽減することがみなべ町及び和歌山県立医科大学と大阪河崎リハビリテーション大学との共同研究により証明されている。さらにはカルシウムや鉄の吸収進作用がクエン酸にはあり、骨粗しょう症や貧血の予防効果があるのだ。

⑤糖尿病対策にもオススメ!

糖尿病を予防するオレアノール酸は有機酸の一つであり、梅にもこれは含まれる。オレアノール酸はαグルコシダーゼの活性を抑えるため糖質の消化吸収を穏やかにし、食後の急激な血糖値上昇を抑える効果を持つ。

梅は身体に良い、それはなぜか?梅の歴史から考える

梅の歴史はとても古く、奈良時代の「和妙抄」には桃や琵琶、梨などと共に梅を生菓子として食べていたと記述されている。そして平安中期の医師によって著された日本最古の医学書である「医心方」には梅干しの効用が取り上げられていたという。時代が飛んで、江戸時代に著された「雑兵物語」には戦国時代の梅干しについての記述があり、それによると当時の武士は食料袋に「梅干丸」なるものを常に携帯していたと書かれている。梅干丸とは梅干の果肉と米の粉、氷砂糖の粉末を練ったもので、激しい戦闘や長い行軍での息切れを整えたり、生水を飲んだときの殺菌用に使うなど役に立っていた。江戸時代には一部の人にした食べられていなかった梅干しも庶民の家庭にも登場するようになり、梅干しの普及が進む。時代は変わり、明治11年に和歌山でコレラが流行し死者も多く出たが、この時梅干しの殺菌力が見直され需要が急増した。また、日清戦争の際には外地で伝染病にかかった兵士に軍医が梅肉エキスを与えたところその兵士を完治させ、梅干しの薬効を実践した。

このように時代を経るにつれ、梅干しの殺菌力や疲労回復効果、薬効などが証明されていったことからも、梅干しは健康に欠かせないものであると同時に病気に対しても強いことがわかる。