パソコンの使い方を教えるとともに一緒に復興計画を見たり議会中継をネットで聞いたり

 

宮城県山元町で復興支援活動を続ける田代さん

 

「私の原点は、95年の阪神・淡路大震災です。大学4年生だった私は、ボランティアとして神戸市役所でホームページの更新などを手伝いました。けれども、ある人にまったく役に立たなかったねと言われて、返す言葉がなかったんです。一方で自衛隊には「ありがとう」という横断幕が掲げられていたのを見て、悔しくて涙を流しました」という田代光輝さん。現在は、ニフティ株式会社の社員だ。日本社会情報学会(JSIS-BJK)災害情報支援チームと協力し、会社を巻き込んで宮城県亘理郡山元町の復興支援活動を続けている。

 

 

山元町にある坂元駅(プラットフォーム)。津波により線路も流されてしまった。
 

知人のツテで依頼され、田代さんは4月7日に初めて山元町へ入った。宮城県の東南端に位置し、太平洋に面して長い海岸線が広がっている。震災前は、穏やかな町として知られていた。平らな土地の向こうに海が広がり、海と空の青さが印象的な場所だ。そこを津波が襲い、町域の約4割が浸水した。当初は「田園地帯が浸水した」と報道されたが、実際は住宅地が押し流された跡だったという。

 

 

 

山元町など宮城県南部の被害は、石巻から北の地域に比べるとなかなか報道されず、山元町の人々は疎外感を抱いていたという。田代さんは「自分たちがどういう状況にあるのかが分からないと、次の行動がとれないんです。情報がないと人は行動できないということがよく分かりました」と述べる。そして田代さんは「山元町は情報の力が最も必要な地域です」と支援の重要性を社内で訴え、社会活動推進室へ異動して山元町の支援に専念することとなった。

 

田代さんは被災地支援で「餅は餅屋である」と気づいたという。つまり、スペシャリストの仕事は特別なことをしなくてもそのままで高い価値を提供できるということだ。田代さんはインターネット企業の社員として、人々をネットに繋げることに専念した。紙の伝言しか無かった避難所にパソコンを持ち込み情報を届けると、避難所の人々は最初のうちはひたすら安否情報を調べていたという。そして5月の連休明けに「インターネットのお陰で中古車が買えたよ。ありがとう」という言葉をかけてもらえたとき、情報の力が動けなかった人々の“行動”に結びついたことを喜んだそうだ。「GoogleやYahoo、Twitterなどを普段使っていた方はそのサービスは使いこなしています」、「インターネットは必要。メールは生命線です」、「ミニマムな情報発信にはブログも必要」と次々と経験を語る田代さん。「神戸でできなかったことができたと感じました」と表情が明るかった。

 

冬に入った頃から力を入れているのがパソコン教室だ。なぜ被災地でパソコン教室なのか。津波に襲われた地域を再生するのかどうか、常磐線の駅を移設するのかどうかなど、町の復興については多くの高齢者が関心を持っている。だが、行政がホームページ上で公開している情報に自分からアクセスできる高齢者は少ない。田代さんのパソコン教室では、パソコンの使い方を教えるとともに、一緒に復興計画を見たり議会中継をネットで聞いたりすることも行っている。

 

「高齢者でも、パソコンを使うことを諦めているわけではないんです。教えて!というニーズはあります」と田代さん。たしかに仮設住宅のパソコン教室では、まだあまりパソコンに触れたことがなかった人たちがホームページを検索し、ニュースや動画を見ることができるようになって、とても楽しそうだった。写真を加工できるようになったり、ボランティアで訪れた人への御礼ムービーを作るまでになった人もいたりするそうだ。

 

その他にも田代さんのグループは臨時災害FM「りんごラジオ」のブログによる情報発信を手伝ったり、津波を被って劣化した写真をデジタル保存するとともに持ち主に返す「思い出サルベージアルバム・オンライン」プロジェクトを立ち上げたりもしている。

 

最後に田代さんはこう語った。「山元町はもともと、少子高齢化と人口減少が進む田舎町でした。そして今回の震災では、その時計の針が10~15年分も一気に進んでしまった。つまり、山元町には将来の日本が直面する課題がつまっている。でも震災を契機に住民はそれに対抗しようと頑張っています。だから、“山元を救えなければ、日本の未来を救えない”と考えています」。そして「仮設住宅がなくなって、皆さんが日常を取り戻した時が支援のゴールと思っています」と明るく力強く笑った。

 

(取材日:2012年1月27日 ネットアクション事務局 庄司昌彦)

 

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