技術者ならではの「オープンソース」の視点
Hack For Japanスタッフの高橋憲一氏。スマートフォンの黎明期から、第一線で開発に携わってきた生粋の技術者だ。
生まれは山形県酒田市。小学生時代には「電子ブロック」にハマった。中学生になると、近所のアマチュア無線のお店にコンピュータが展示された。お店の主人に頼んで、毎日通って、雑誌に掲載されたゲームのプログラムを打ち込ませてもらった(お店側も、お客さんに見せるゲームを作ってくれるから、内心喜んでいたようだ)。
ちょっと間違えると予想外の動きをしたり、ちょっと工夫すると想像以上に計算が早くなったりするコンピュータに心を躍らせ、技術者の道に進む。その後ソフトウェアエンジニアとなり、今でも没頭すると徹夜でプログラムを書いてしまう。
東京で勤めて16年になるが、最初の就職は仙台だった。その頃お世話になった方が、石巻にお住まいだった。震災当時も石巻にお住まいだとは知っていたが、土地勘がなく、安全な高台なのか分からない。そして、震災の瞬間どこにいらっしゃったか分からず、安否が不明だった。
震災直後から仙台や石巻の様子が気になるが、情報が得られない。そんな中、立ち上がったのが“Google Person Finder”だった。立ち上がるスピードに驚くとともに、「被災地はパソコンも使えない状況だろう。本当に情報が集まるのだろうか?」と冷静に見ていた。しかし、被災地外の人が入力を手伝ったりすることで、迅速に情報が集まっていった。石巻の恩人の無事を“Google Person Finder”で知った。
「情報通信技術でやれることがあるんじゃないか」と目の覚める思いがした。「自分も何かをしたい」と思ったが、個人や企業によって、さまざまな復旧・復興関連のサービスが立ち上がる中、「一人で何かを開発するのではなく、会社として動いた方が大きなことができるんじゃないか」と思った。
当時勤めていた会社は、全国規模で有名な、位置情報を活用したスマートフォン向けアプリケーションを持っていた。「そのアプリケーションを活用して、被災地に応援メッセージが送れないか」など、利用者からの発案もあって、何度か提案したが、会社からはなかなか同意を得られなかった。「会社も効果が限定的と考えたんだと思います」と高橋さんはいう。
その中で、TwitterでHack For Japanの活動を知った。「位置情報を活用する我々のAPI(※1)を提供するという形でなら、役に立てる場所があるのでは」と考え、会社に参加を提案したところ、賛同が得られた。API公開によって機能を提供することで、他のアプリケーションと連携できるようにしたり、さまざまなアイデアを実現する際にその機能を使えるようにする。ひとつのサービスを開発するよりも可能性が広がる。会社も許可を出してくれた。そして「APIを公開するだけでなく、技術サポートが必要だ。サポートをしっかりやるように」と、各地のハッカソン(※2)への交通費を支給するなど、高橋さんを支えてくれた。
インターネットの時代になり、Linuxなどの「オープンソース」が台頭する中、技術者の繋がりが、「組織的な繋がり」から、組織を越えた「ネットワーク的な繋がり」になることを体感している。API公開も、技術がネットワーク的に繋がる第一歩だ。
Hack For Japanでどのような活動をされているかを伺うと、「及川さんのように機転が利いたリアクションはできないんですけど」と、謙虚に、静かに話す。高橋さんはHack For Japanでは、チューターなど「裏方」に徹しているという。自分が技術者だから、技術者が伸び伸びと開発するためには何が必要かを知っている。
そして高橋さんは、「誤解を恐れずに言えば、震災をきっかけとして、Hack For Japanの仲間との良い出会いを頂いた」と話す。
オープンソースを知り、技術者を知り、仲間を大事にする高橋さん。今後もさまざまな繋がりを生んでいくに違いない。
※1 「API」とは ・・・・・
”Application Program Interface”の略。アプリケーションを構成する個々の機能に用いられている関数等の集まり。技術者は提供されたAPIを利用することで必要な機能を呼び出し、自分のアプリケーションの中で活用できる。
※2 「ハッカソン」とは ・・・・・
会場に技術者が一堂に会し、1日、2日といった決められた時間内に、チームに分かれてアプリケーションを開発し、最後に発表・講評し合うイベント。
(取材日:2012年2月13日 ネットアクション事務局 森崎千雅)
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