左官職人の祖父は、普段あまりしゃべらない。

 

酔うと手がつけられなくなるくらい酒癖が悪かった。しかし、どんなに暴れても私に対しては機嫌よくしゃべりかけてくる。

 

昔から肌が弱かった私を連れては、よく国民温泉に行った。ほのかに硫化水素のにおいが漂う、とろみのあるお湯にゆったり浸かれば、湯上がりには実感できるほど肌がすべすべになる。

 

 

国民温泉は、しなの鉄道線戸倉駅から徒歩約10分、千曲市戸倉庁舎近くの住宅街にある。

 

料金は中学生以上が300円、小学生は120円。牛乳は番台のおばちゃんに100円を渡して、自分で冷蔵庫から取る。

 

温泉街の中心地から少し離れた住宅街にあるため、ほとんどの入浴客が地元の人。決して広くはない湯船に浸かりながら、なんとなく常連さんと言葉を交わすのもいい

 

 

手書きで大きく「国民温泉」と書かれた看板。名前もなんだか怪しいし、建物もボロっちい。中はひょうたん型の湯船がひとつあるだけ。背伸びすれば覗けるんじゃないかっていうくらい低い男湯と女湯の脱衣所を隔てる壁。番台のおばちゃんと話す常連のおっちゃん。そんな昔ながらの銭湯といった雰囲気が、どこか懐かしい。


戸倉上山田温泉には、国民温泉の他に外湯が6つ点在している。戸倉上山田温泉で最も歴史のある「かめ乃湯」、濃い緑色の温泉が出る「観世温泉」など個性豊かだ。それぞれの個性を楽しみながら何箇所か巡ってみるのもいいかもしれない。