情報通信技術をうまく活用している方への支援や、活用できる人を育成すること

 

株式会社リコーの震災復興支援室の二宮倫明さん

 

二宮さん

 

被災地に何度も足を運んでいる二宮さんは、非常時には、紙が情報を伝える有力な手段となることを今回の復興支援から感じた。気がついたのは、自治体は紙については必ずしも非常時に備えていないということ。被災地には全国各地からボランティアが集まり、土砂のかき出しなど様々な支援活動を行ったが、ボランティアへの依頼や状況説明は全て紙で行うため、使う紙の量が一気に増え、すぐに無くなってしまった。東京に近い場所でも、すぐには紙の手配が出来ない実情を目の当たりにした。

 

紙が無くなるとどうなるのか。「極端な話、土嚢を100枚用意してといった所にスコップが30個届いたり、力仕事だから屈強な大学生を回してといった所に女性ボランティア20人が来たり、土嚢をダンプいっぱいに積み込もうとしたのに軽トラックが来たり」。今でこそ笑い話だが、当時は各地でそのような状況になり、結構イライラが募る原因となっていた。

 

また、東北の被災地では、市と県が必ずしもうまく連携できていないと感じた。県には支援物資が全国各地より届けられ、うず高く積まれている。市にもそれなりに物資が届いている。しかし、住民が必要な物資ではなかったり、数が合わなかったりしていた。支援の報告で県庁に行った際、「市では物が足りない」と伝えると、「いっぱいありますよ」と職員の方がリストを見せて下さったという。

 

市が支援物資を配布する場合、「全被災者の方々に配布するには4,000個必要ですが、うちの倉庫には3,000個しかありません。だから、配布しません」という話になることがある。緊急時なのだから、とにかく一部の地域にでも、支援物資を回す必要があるのではないか。どうしても平等にというのであれば、足りない物資は県に依頼して出してもらえば揃ったのではないだろうか。そういう連携が良くなく、必要な物が、必要なときに、必要な数だけあっても届けられないという状況が発生していた。一度、リコーが市と県の仲介に入り、ミスマッチの解消をお手伝いしたこともあるという。

 

発災当初は滅茶苦茶な状態で、どうやって情報を発信したらいいか分からなかった。市は、インターネットで情報を発信するのだが、インターネットを見られる人などほとんどいない。「申請書はネット上にありますと言われてもどうしようもない。がんばって広報紙も発行しているが、印刷所が稼動してないのでインターネット上に載せるだけになる。これだと、必要としている被災者はほとんど誰も見られない。見るべき人に情報が届かない」

 

株式会社リコーの震災復興支援室長の黒田裕芳さん

 

黒田さん

 

リコーは、震災直後に災害支援対策本部を立ち上げ、6月に震災復興支援室を作った。黒田さん自身、現地に物資や人を送るだけでなく、リコーならではの役立ち方があるはずだと考え、自ら手を挙げた。

 

リコーでは、発災当初から、被災関係の手続きなどにコピーが必要になると考え、自治体に対してコピー機の貸出しを行ってきた。リユースのコピー機を回したり、全国各地に販売を予定していたものを転用したり、納品時期をずらしたりして対応した。その後も貸出しの要望は多く、現地に入ったNPOなどからの要望もあった。被災地の自治体職員は、被災した住民に対して情報が十分伝わっていないことを認識していた。また、避難所や仮設住宅で生活している住民も、自治体からの情報を欲していた。

 

リコーの「コミュニティ巡回型情報プリントサービス」では、製品配送用に使っていたトラックに複合機を積んで避難所や仮設住宅を回り、自治体からの情報を印刷して配布することで、自治体と被災住民の情報伝達のミスマッチを補完した。こうすれば、現地でトラックにケーブルを引くだけで、必要な情報を、必要な方に、必要な量だけ提供することができる。被災した住民に、市のお知らせや仮設住宅のコミュニティ情報などをその場で印刷して渡すことができた。また、自治体と相談の上、被災証明書や罹災証明書のコピーサービスも行った。これらのサービスは、自治体ごとに3~4名のメンバーが担当し、大きい仮設住宅へは週に1回、小さい所へは2週間に1回行くようにしている。現在、宮城県の東松島市や、岩手県の釜石市・大槌町・陸前高田市で活動している。

 

現地ではインターネットの活用度合いにかなり差があると感じる。単にパソコンやネットを引いただけの場所では、ほとんど活用されていないことも多々ある。逆に、仮設住宅の自治会長が中心になって、住民が集まれる憩いの場を作り、発信すべき情報を整理しているところもある。そんなところにリコーのメンバーが訪れると、それをプリントアウトしてほしいと頼まれる。インターネットを使いこなす技術も重要だが、積極的に情報を発信したいと考えているところの方が、インターネットをうまく活用しているように思う。「今後は情報を発信できる人を育成することも必要だと思います」

 

最初は、どんな形でお役に立てるか分からなかった黒田さんだが、現地を何度も訪れ、被災した人たちと話を繰り返す中で見えてきたニーズがある。「被災地の方々と同じ目線に立ち、被災地の方々に寄り添うことが重要だと気づいた。そして今後は、自立して活動しようとしている人たちをどう支援するかが大切だと思う」

 

(取材日:2012年1月10日 ネットアクション事務局 雨宮僚)

 

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