被災者の同士として進める地方行政研究

東北大学大学院情報科学研究科 河村和徳准教授

河村さんは、3月11日に大震災を東北大学内で経験し、その後、宮城県の新しい公共に関する委員会に参加した。現在は、研究者としての仕事を続ける 一方で、社会へのコミットメントを強めようという思いが高まっている。仙台で被災し、その後も電気のない生活がしばらく続いた経験の中で、同士として被災 者とともに悩みつつ研究を進めている。

 

 

震災と政治、行政のあり方を考える中で直面している問題もあれば見えない問題もあり、5年後を考えることが今求められていると感じている。現在は 増えている公共事業もやがて先細りするのは確実なため、将来を見据えて何が必要かを考えるべきではないか。現在、復興の需要は宮城県、特に仙台市に集中している。このままでは、その他の地域の人々が仙台に流出し、すでに復旧格差問題が生じていることを忘れてはならない。
こうした格差は本来政治が解決すべき問題であるが、現在の政治は優先順位をつけられないでいるのではないか。また、今後の地方行政は自治体の境界を越えた広域での取組みが課題となる。今後の防災のあり方とか経済活性化はこうした境を越えて取組まれなければならない。

 

今回の震災で痛感したのは人のつながり、いわゆるソーシャルキャピタルの重要性。地道に近所づきあいや地域活動をやってきた人は情報が早く入ってきたり、特別の配慮を受けたりと恩恵を受けることが容易であった。そうしたところは行政が必ずしも関与できるところではない。

 

復旧と違い、復興は提案型でやるべきで、短期間で無理に人を集めて何かを決めさせるというのはやや感覚のずれを感じる。今後そうした提案力を養うた めにも、たとえ失敗しても責任が問われない「種まき」のための予算がつけばいい。そこで住民が参加して企画提案できるかが本当の復興につながるのではない か。小さな成功体験を住民が持つことがきっかけになる。
また、情報技術をどう活用するかも課題となろう。電子入札のコアシステムのような「標準化されて自治体で共通して使うシステム」は、復旧のスピードを速め ることができる。ただ、ITは電力に依存するので、電気がやられてもどこまでが利用可能なのかについて、今後被災地でのヒアリングもしながら考えていきた い。

 

福島県双葉町は原発事故のため、住民は福島県郡山市と埼玉県加須市に避難先がわかれ、本庁は加須市に設置された。11月に延期された統一地方選挙の 際は、郡山での投票箱を閉じた後パトカーで先導して本庁のある加須市まで投票用紙を運んでいった。例えばここで共通番号の基盤が整っていたら、電子投票シ ステムが実用化されていたら、こういった事務は発生しなかっただろう。選挙事務はIT化がもっとも遅れている分野である。
今後は、双葉町のような状況下でも使えるITについても、なにか考えていきたい。ただし、住民、とくにパソコンをあまり使わない高齢者はIT技術そのもの には関心がない。どのような目的、用途で利用できるか。例えば、安否確認が簡単にでき、かつプライバシーが保護される仕組みなどから議論を始めるなど工夫 が必要だろう。
今回、仮設住宅とみなし仮設の間で情報格差が広まったことにも目配せする必要がある。普通の仮設住宅は、行政のフォローもあって情報が入ってきやすいが、 みなし仮設と呼ばれる賃料補助型の民間住宅はなかなか情報が入ってこない。行政情報を携帯、スマートフォンに流す仕組みがあってもよい。原発事故もあり、 長期に避難を強いられる人が、これから出てくるだろう。この人たちのための電子行政も考えなければならない。

 

仙台では、地震で家に帰れなくなった人が続出した。こうした昼間人口対策をどうするかが課題のはずだが、現在は議論が出てきていない。ITで通勤を 不要にする仕組みがあってもいい。これはひいては過疎化対策にもつながる。というのも、人材流出を食い止めることが出来るためだ。消防団に入りたくても通勤が理由で参加できないというケースもあるようだ。

 

毎日が研究の対象としてリアルタイムである。自分が思いついたところから調査を始め、インタビューを行う一方、サーベイ調査をやったりしている。調 査の際は、自分の考え以外の選択肢を持つことを心がけている。私はこう思うがあなたはどう思っているのかといったところを尊重しながら研究活動に取り組 み、学者の押しつけにならないような提言が行えればと思っている。

 

河村和徳准教授のホームページなど

http://www.page.sannet.ne.jp/kwmr/

東日本大震災と地方自治(2011年12月26日講演):PDF

選挙における情報技術活用にむけて(20120207仙台市講演資料):PDF

 

(取材日:2012年1月26日 ネットアクション事務局 上瀬剛)

 

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