語り継がれるもの について知っていることをぜひ教えてください

 

今を知るために「民話」が気になる

「民話」、物語といえば、柳田国男氏による『遠野物語』が有名である。そこで、柳田国男氏をはじめとする日本文学の研究者で東京学芸大学教授石井正巳氏の「物語の世界~遠野・昔話・柳田国男」という作品を手にした。書には、遠野市が、『遠野物語』をはじめとする古くから言い伝えられてきた『民話』を、現代のものと捉え、それを今に活用することで、「観光だけにとどまらない歴史や民俗を学び考える」ということを軸にした街づくりが実現されていることが綴られていた。遠野市と数々の物語との繋がりを他の地域にそのまま当てはめることはできないかもしれないが、いづれにしても人が生きてきた経緯を学ぶ偉大な資料となると感じるのだ。それらは、現在を知る上では欠かせないデータのひとつとなり未来にも繋がると思うのだ。

 

明治四十三年(1910)六月、柳田国男は、『遠野物語』を出版した。そこには、遠野出身の文学青年佐々木喜善から聴いた、不可思議な話が多く収められていた。「山の神」「里の神」家の神」をはじめ、「天狗」「山男」「山女」「河童」「狼」「熊」「狐」などが登場する。神仏や妖怪、動物、植物が村人とともに生きている世界がそこにある。柳田は、それらを「目前の出来事」「現在の事実」と認定した。(物語の世界より抜粋)

 

 

民話や歴史をもとに研究の町を目ざす・・遠野市の街づくり

遠野は、昭和50年(1975)前後から、広く「民話のふるさと」として知られるようになる。それまでは、豊かな自然を観光資源としてきたが、「遠野物語」や昔話に注目しはじめたのである。そして、市内には、遠野市立博物館・図書館、伝承園、昔話村、ふるさと村などといった観光施設が次々に建てられていった。

 それらに連動して、観光客を迎えたのは、昔話を伝承する語り部であった。彼女たちは、「オシラサマ」「ザシキワラシ」「カッパ淵」などの話を語った。その多くは、『遠野物語』と似た話であった。そのため、昔話を聴いた人々は、『遠野物語』は今も生きている、と実感することができたのである。それは、この町が作り出したシステムだった。

 一方、遠野は単なる観光の町にとどまらず、歴史や民俗を学び考える、研究の町を目ざしてきた。毎夏、遠野市立博物館はさまざまな特別展を催し、遠野物語研究所は『遠野物語』をテーマにしたゼミナールを実施している。博物館や研究所を訪れれば、物語の世界はぐっと身近なものになるにちがいない。(物語の世界より抜粋)

 

この石井正巳氏著作「物語の世界」の冒頭で記述されている「耳の文学」という表現がとても私の中では斬新であった。数え切らない人々と、広い地域から、時代を越えて語り継がれるもの。そして残していきたいもの。書は、2004年の発行であるが、12年を経過した現在も尚、遠野市の「観光だけにはとどまらない歴史や民俗を学び考える」歩みは続いている。

 

 

 

「2016/12/20 菅原由美」