防災はソフトとハードの両面で

 

教育を充実させるとともに、制度や技術に防災対策を埋め込んで、継続させることが必要

災害時の情報管理を専門とする東京経済大学の吉井博明教授。情報を活用し災害から命を救うとともに「混乱しないように伝えるにはどうすべきか」それが研究テーマだ。災害が起こると現地に行く。どういう情報が、どういう状況の中で、どのように流れたか。その情報で人々や組織はどう動いたか。被災者のも とや市役所、消防に行って話を聞く。問題点は、現地を見ないと分からない。

 

 

1983年日本海中部地震、1993年奥尻島津波、2003年十勝沖地震、今回の東北の津波でも現地に出かけた。長年、災害を見続けてきてわかったことは「人は同じ行動をする」ということだ。「危ないですよ」と言っても、なかなか避難しない。「自分は大丈夫」「ここは大丈夫」と思ってしまう。避難しないから、被害が出てしまう。

 

一昨年2月、チリ地震の時、三陸にも大津波警報が出た。3メートルの津波が来ると警報が出たが、実際には堤防をわずかに越えた程度で被害が出なかった。だから「今度も大丈夫だろう」と「経験の逆機能」が働いてしまう。

 

行動は教育すれば変わるはずだ。今回の災害で人的被害の少なかった釜石は「奇跡」と言われるが、奇跡ではない。小さいうちに教育すると良い。幼稚園 の子供は「揺れたら机の下に潜れ」と言ったら、そのとおり潜る。小学生はまあまあやる。中学生は怪しくなってくる。高校生は勝手なことをやり出す。大学生になると全然言うことを聞かない(笑)。

 

防災教育を徹底させることは難しい。災害は、しょっちゅう起こらないからだ。一生に一度あるかないかのことに備えるのは難しい。防災教育を学校教育に入れようとすると、どこに入れるのか問題が起こる。そもそも、どういう科目に入れるのか、誰が教えるのか、試験に出るのか。試験に出ないことは、勉強しないものだ。

 

防災として最も効果があるのは、ハードウェアによる対策だ。建築基準法の改正が最大の地震対策になる。一度耐震基準をつくって制度に埋めこめば、建設会社はそれに合わせざるを得ない。教育などのソフトウェアの対策はすぐ劣化するが、技術的な対応は浸透しやすく、継続しやすい。家を建て替えれば、景気だって上がる。
情報伝達の面で、ITはすごく役に立つ能力を秘めている。メールはもう皆が使っているし、これからはTwitterもSNSも使うようになるだろう。情報伝達手段は豊かになっている。

 

災害対策へのITの貢献として最も可能性があるのは、シミュレーションだろう。今回は活かせなかったが、放射性物質の大気中濃度を気象条件などを加味して予測するシステムがある。ただ、今回は測定データが少な過ぎて結果の信頼性が低かった。うまく使って、市町村の人にその情報を早く伝えられたら、的確な避難に結びついた。
地震の被害想定システムは既に各自治体に導入されている。実際の被害の情報を基にどんどんリアルタイムで対応に活かせるよう、開発を進めてほしい。

 

そのほかにも災害時対応ロボットや衛星通信システム等、技術が災害対策に貢献できる分野はまだまだある。

 

災害への備えという課題は、静岡、東南海、南海など、これから日本各地に波及していくはずだ。鎌倉で14mの津波の危険性を想定した結果が出ている し、東京も例外ではない。災害対策の体制を維持していくのは大変だ。だからこそ、教育を充実させるとともに、制度や技術に防災対策を埋め込んで、継続させることが必要だ。

 

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吉井教授が協力したアンケート調査結果が下記のURLで公開されています。

 

・国土交通省 「津波からの避難実態調査結果(速報)」

http://www.mlit.go.jp/common/000186474.pdf

・株式会社サーベイリサーチセンター 自主調査「東日本大震災被災者アンケート」

http://www.surece.co.jp/src/press/backnumber/pdf/press_35.pdf

 

(取材日:2012年1月24日 ネットアクション事務局 木村有紀)

 

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