Hack For Japan 及川さん、冨樫さん対談(2/4)

 

Hack For Japan 及川さん、冨樫さん対談(2/4)

 

現地と後方支援をつなぐ

 

- まず最初に、お二人にとって、互いの存在はどのようなものですか。

 

冨樫:及川さんのことは、2012年1月23日放送のNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に彼が登場するので、それを見ればわかりますが、彼の人を惹きつける力はすごくて、多くの技術者の憧れでもあります。ある意味、Hack For Japanのブランドですね。強い思いを持って皆に声をかけ、その週にはイベントを開催してしまう。これはグーグルのスピード感でもあり、及川さんのスピード感でもあります。このスピード感は、Hack For Japanの特徴のひとつだと思います。彼からは個人的にも多くのことを学ばせて頂いてます。また、震災直後にハッカソンを開催した時は、一気に500名くらいが参加しました。いざという時、動いてくれる人がこんなにいるんだと感動しました。

 

及川:Hack For Japanに限らず、コミュニティマネジメントはすごく難しいんですが、冨樫さんは、常に長期的な視点を持ちながら、スタッフやメンバーの意見を聞いたり、国や他の団体との関係づくりを丁寧に進めてくれています。これは、彼の社交的な性格と個性がなせる業でもあります。私はどちらかというと勢いで動くことが多いので(笑)、最初に冨樫さんに会った時、「あ、この人は自分とはノリが違うな」と思いました。

 

冨樫:Hack For Japanが立ち上がった当初から、及川さんを始め、開発者を支える周辺のスタッフが必要になることはわかっていました(笑)。

 

- 2011年12月17、18日に実施した「復興ボランティア情報交換会in石巻」の感想を教えていただけますか。

 

冨樫:この情報交換会のことを最初にスタッフに話した時は、「国の手伝いするの?」「その分、寄附したほうがいいんじゃないの?」といった意見も出ましたが、結局、オープンガバメントの促進が技術者への必要なデータの開示につながり、そこから被災された方々に有益なものを作り出すことができればいいのではないか、という結論になりました。

 

及川:私自身、震災後、被災地に何度も足を運んでいますが、被災地の状況を知れば知るほど、いったい何ができるのか、どうすればいいか悩んでしまいます。一方、現地に行くことで得られる新たな発見や学び、ヒントもあります。また、Hack For Japanには、現地の方々を支えているNPOやNGOなどを後方支援する役割もありますので、現地の方と直接接する機会は大切です。今回も、石巻の情報交換会でお会いした方々のうち、ピースボート災害ボランティアセンターや、「寄附のしっぽ」の方とは、具体的な話を開始しました。これで一緒に行動できる仲間がまたひとつつながりました。現地に長期間滞在したり、そのまま定住して市民になった人たちもいますが、そこまでできないけど何か支援したいと思っている人も多いので、これらの人と、現地で活動しているNPOや現地の人をつなぐモデルは重要だと思っています。

 

冨樫:これまで、青森、岩手、宮城、福島の各所を回ってきましたが、石巻は今回が初めてでした。実家が石巻に近いこともあり、逆にこれまで訪問できずにいました。各地を回って感じるのは、地域ごとに課題やニーズがかなり違うことです。発災直後は、安否確認や支援物資の供給など比較的ニーズは似ていましたが、3ヶ月ぐらいたつと、ニーズがだんだん細分化し、直接、現地に関らないとわからないようになってきました。中心市街地の衰退や街のドーナツ化現象など、震災以前から街が抱えていた課題が、今回の震災により一気に加速してしまった面があるように思います。

 

及川:これからは、風化防止とアーカイブが重要だと思います。例えば、2011年3月11日、あなたはどうしていたかを日記に書いてもらいます。あの日のことを思い出し、共有するだけでもずいぶん違うと思います。その中から、次のHack For Japanでやるべきことがわかるかもしれません。また、被災地から情報を発信する際には、テキストだけでなく、写真や動画といった言葉の壁を越える素材をうまく使うといいと思います。ただし、それには編集スキルが必要ですし、どのツールを使ってどのメディアに流せばいいかなど、経験がないとわからないこともあります。この部分は、首都圏など被災地以外からでも支援が可能ではないかと思います。

 

- 今後の復興支援では、被災地に産業や雇用を創り出していくことも必要ではないでしょうか。

 

及川:これからの地域の復興を考える際、観光は重要なテーマのひとつだと思います。今はボランティアや工事の作業員などが現地に来ていますが、これからは純粋に観光目的で来てもらうことも考えるべきではないでしょうか。石巻での情報交換会でも、現地の方からそのような意見が出ていました。

 

冨樫:以前訪問した、岩手県の遠野市や釜石市にも、小さいけど優れた観光資源がたくさんあります。これらの地域の観光資源を今後どう活かしていくかも重要ですね。

 

冨樫:IT産業という視点で見ると、私の知り合いに東北でウェブ制作を手がける会社を起こした若い社長がいます。地方都市は家賃や物価も安いので、それほど儲からなくてもやっていけるそうです。プライベートな時間も取れ、ボランティア活動にも参加できます。雇用を生むのはなかなか難しいですが、まずは個人事業として行うことなら可能かもしれません。現地に飛びこむ覚悟は相当なものだとは思いますが。

 

及川:事業の支援という面では、すでに多くの被災地支援ファンドが立ち上がっていますが、例えば、一定額は寄附して、それ以外はファンドとして投資し、事業の成否によりリターンを得る仕組みが考えられます。被災地の事業を投資対象とする場合は、リターンとして現地の名産品などが送られてきてもいいと思います。石巻の情報交換会でHack For Miyagiの小泉さんが紹介していた漁業を支援する仕組みはいいですよね。同じく石巻で紹介された「寄附のしっぽ」も参考になると思います。

 

冨樫:漁の場合、船一艘あれば現金収入が得られます。配当は獲れた魚(笑)。一方、牡蠣の養殖などはすぐにはお金にならないので、ファンドや寄附も、長い目で見ないといけませんね。

 

寄附のしっぽ」とは ・・・・・

日本の寄付・応援文化の発展・浸透に貢献できる社会システム作りを目的として設立されたNPO団体。お金の行先・使われ先を明確にし、個人・法人を問わず、顔の見える小規模な団体を自己責任で自由に選択して応援する仕組みづくりを推進中。

 

及川:現在、多くの寄附の申込み方法が銀行口座になっている点も課題だと思います。海外からも簡単に寄附できるように、クレジットカードを用いたマイクロペイメントの仕組みがもっと広がるといいと思います。また、何か支援したいと考えている人が、被災地で役に立つウェブサービスや携帯アプリケーションを作ろうと思っても、サーバーを借り続ける費用負担のために躊躇してしまうこともあると思います。このような人や活動に、直接寄附できる仕組みがあってもいいのではないでしょうか。

 

(取材日:2011年12月20日 ネットアクション事務局 村上文洋)

 

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