室蘭出身の漫画家、曽根富美子さんの母校である室蘭商業高校の70年史に、当時の教諭である桑原茂暢氏が彼女とのエピソードを手記として載せていますので、一部を抜粋してご紹介いたします。

タイトル「曽根富美子のこと」教諭 桑原茂暢

私が、室商出身のプロの漫画家の曽根富美子に出会ったのは、彼女が二年生の時である。

今から約二十年位前のことである。そのときの印象は、ごく普通の生徒で特に変わったところはなかった。

~中略~

さて、ある日、曽根富美子ー以下、愛称トンコと呼ぶことにするーの担任の先生が、「曽根の投稿したマンガが入選し、それについてNHKからテレビ取材があるので、特欠をよろしく…。」という連絡が、朝の打ち合わせであった。それで初めてトンコが、マンガを描いているのだと知った。テレビは見なかったが、入選した作品は「千聖子」という題名で、何か社会的な問題を扱ったものらしい記憶がある。私もマンガは読んだはずである。が、今では全く記憶にない。

トンコが言うには、

「先生もマンガに登場させたからね。」という。

なるほど、たった一コマの、つぎはぎの白衣を着て、教壇に立っている理科教師らしい人物が登場していた。

~中略~

その後、トンコは卒業し、東京に就職していった。その時からすでに、将来マンガ家になる決意をしていたのであろう。

何年かして、美術部の生徒が、

「先生、これトンコ先輩の描いたマンガだよ…。」といって、「ブーケ」という厚いマンガ雑誌を見せてくれた。学園ものであったが、姉と弟のほのぼのとした心の交流が描かれていて、単なるマンガ以上の感動的な作品になっていた。

最近、トンコから私あてに自分の作品を直接、送ってくれるようになった。その中に、室商時代の美術部の恩師をモデルにした「ファザーⅠ」、「ファザーⅡ」を読んだ時の驚きと感動は、今なお忘れることができない。彼女が、もう十分にプロの作家としての地歩を占めたことをはっきり認識させ得る、ある意味ではカルチャーショックを与えた。

~後略~

※この文章が掲載された70年史の発行は平成5年です。