筆者(ポール・ナース)には二人の娘と四人の孫がおり、それぞれ個性的であるが、身長や瞳の色、口や鼻のカーブ、独特な仕草や顔の表情など、よく似ているものもあれば、ほどんど似ていないものもある。そこには何世代にもわたる連続性が見られる。
すべての生物に通じる明らかな特徴として、親と子が似ていることが挙げられ、アリストテレスなどの古代学者たちも気づいていたが、遺伝の生物学的な原理は、なかなか解明できない謎であった。さまざまな説明がなされてきたが、現代からは少しばかり奇妙に思える説もある。
- アリストテレスは、母親だけが子どもの発達に影響を及ぼすと考えていた。
- 子どもは両親の血が半々に混じったものを受け継ぐと考える人もいた。
遺伝の仕組みをさらに現実的に理解するためには、「遺伝子」の発見が必要であり、複雑にからみあった、家系を貫く類似性と、その人独自の特徴といった謎を解明するのに役立つ。そして、生命が、細胞や生命体を作り、維持し、再生するために不可欠な情報源でもある。ブルノ修道院の修道院長だったグレゴール・メンデルは、遺伝の謎を理解した最初の人物であり、エンドウ豆を使い入念な実験を行い、その結果が最終的に「遺伝子」の発見へとつながっている。
メンデルは、遺伝の意味を探るために化学実験をした最初の人物でもなく、植物を使って答えを見つけ出そうとした人物でもない。メンデルよりも前に、植物をかけ合わせる育種家は、植物のいくつかの特徴が、直観と相容れない方法で世代から世代へと伝わることを記録していた。
- 紫の花をつける植物と白い花をつける植物をかけ合わせると、ピンクの花をつける植物を生み出す場合もある。
- 特定の世代において常に紫の花をつける植物を生み出す場合もあった。
初期の先駆者は、興味深い手がかりを多く集めたが、すべての生物において、遺伝がどのように働いているのか、植物において、どのように機能しているのか、十分に理解されることはなかった。しかし、メンデルがエンドウ豆の研究をしたことで明らかになっていった。