はじめに
がんはヒト細胞の異常な細胞分裂によって起きる。
1980年代、ロンドンのがん研究所で働いていた時、同僚のほとんどはヒトの細胞周期の制御の仕組みを調べていた。
筆者は酵母の細胞を制御している 「cdc2」 という遺伝子の「人間版」があるのではないかと考えた。
酵母と人間は遠くかけ離れていて、最後に共通の祖先から分かれたのは2億年から15億年前であり、馬鹿げた考えであると考えた。
実験と驚き
筆者と同じ研究室のメラニー・リーがこの問題に取り組んだのは、cdc2と同じ方法で機能する「人間版」の遺伝子を見つけ出すことだった。
彼女は以下のような手順で実験を行った。
- cdc2が正常に機能せず、分裂することができない分裂酵母の細胞を取り出す
- 1.に何千もの人間のDNA片の遺伝子ライブラリーを振りかける
- 変位した酵母細胞がなるべく1つか2つの遺伝子しか取り込まないように条件を整える
もし以下の2つの条件が満たされれば、cdc2変異細胞は分裂する能力を取り戻すかもしれないと考えた。
- 人間でも酵母でも同じように機能する
- 人間版cdc2遺伝子が酵母細胞に入り込む
実験は成功し、作られた未知の遺伝子の配列を解析したところ、
- タンパク質の配列がcdc2タンパク質と酷似していることがわかった
- あまりにも似ているので人間の遺伝子が酵母の細胞周期を制御できてしまった
- 地球のあらゆる生物は同じ方法で細胞周期を制御している可能性が高い
ということがわかった。
確信
進化の過程において細胞周期の根本的な制御メカニズムは、ほとんど変化しなかった。
ゆえに、人間の細胞がその分裂を制御する方法の理解は広い範囲の生命体を学ぶことで得られると筆者は確信した。
結論
がんとは
- 細胞が制御不能のまま分裂するものである。
- 複製、遺伝システム、そして遺伝システムが変異する能力を兼ね備えている。
そして、人の命が進化することを許す状況こそが、最も命に係わる大きな病気の一つの原因になっている。