「あー、美味しい。アイスティーってこんなに美味しいものなんですね」

香り、苦味と甘みの間にあるような舌触り、冷たさ、喉越し、今までの疲れがすっととれてゆく。

撮影小瀬木祐二

 

英国館はコーヒーが美味しいので、なかなか紅茶を飲む機会がなかった。本当はアールグレイに目がないのに。

 

初めてのアイスティー

暑い1日、徹夜で用意した資料をお客様の前でブレゼンテーション。やり抜いた充足感とかなりの脱力。疲れ切っていた。重たい荷物の朝のコーヒーのとき、ママに預けて、戻った頃には汗だく。

「マスターっ!アイスコーヒー。冷たいの飲むの初めてだよね」

「あー、ごめんなさい、いま、アイスコーヒー落としたところ。まだ冷えてないんです。氷で冷やすと薄まってしまうし」

ママが

「アイスティーは?すぐ入るわよ」
 

 

「いいね、やっと紅茶を飲める」

 

 

 

「ああ、疲れた」ママが三人分の氷を砕き終わった。細かすぎない綺麗な氷だ。

そういえば奥のキッチンで音がしていた。

今までにこやかに話していたマスターが急に黙る。

胸より高い位置から、お湯を一気にポットに落とす。ものすごい集中した顔。茶葉の香りが立ち、素早く濃く抽出された紅茶は一人分ずつティーカップに移して、ひと心地おかれる。ゴブレットに氷が入れられ、そこに紅茶を移し、よく冷えたあとさらに上から氷を足す。美しく透き通っている。一口飲む。香りと喉越し、苦味を甘みに感じさせるなめらかな舌触りと、特有のほのかなベルガモットの香り。アールグレイだ。

「この香りは?」

「アールグレイです」

「大好きです」

「いろいろ試したんですよ。そして、アイスティーはアールグレイが一番でした」

「ええーそうなんですか。なんかうれしいっす」

 

 

連れが、

「いやあこんな綺麗なアイスティー、濁りが全くないんですね。これもコツがあるんですよね」

「はい、勉強させてもらいました」

「旨いわけだ」

 

「いつも思いますが、室蘭の水道の水は本当にすばらしいですね」


ガムシロップの旨味

普段、手を出さない甘味に手を出す。小さなサーバに入ったガムシロップのとろみが気になった。疲れていたからか。数滴たらすと、氷を間を通って静かにグラスのそこにシロップが届く。それを狙うようにストローで少しだけ。なんだか旨い。ただ甘いのではなくやわらかな丸い旨味がある。

「ガムシロップも手作り?」

「それ分かってくださると、やりがいありますねえ」とマスターが笑顔。

 

昼飯に友人が迎えに来たときには、汗もすっかり引いて、ふくらはぎのだるさがすっと消えていた。

「バーでカクテルを作ってもらったようなうれしさ」と連れがいった。言いたいことはわかるきがする。

 

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