イザベラは,平取から函館へ向かう帰り道,有珠山の近くを通ります.

「日本奥地紀行」イザベラ・バード(平凡社)472ページから引用

「そんなわけで,この有珠岳(ウスタキ)を見て私はまったくびっくりし,しばらくの間はこの地方の地理について私が頭の中で注意深く組み立てていた概念は混乱してしまった.この湾にある火山は森の近くの駒ガ岳(コモノタキ)だけであると私は先に聞いていたし,そこまではまだ80マイル離れていると信じていたから,2マイルの眼の前に,このぎざぎざに割れて朱色の山頂をもつ壮大な火山があろうとは知らなかった.」

伊達方面からみた有珠山(2016. 1.31)

だれかが,イザベラに噴火湾の周りには駒ケ岳しか火山がないと間違った情報を伝えたので,彼女が誤解していたの仕方ないですね.

「前面には連山を張り出していて,山腹は深く切り刻まれて峡谷深淵となり,真昼の太陽も光がとどかぬ紫色の暗闇となっていた.1つの峰は深い噴火口から黒い煙を噴出し,別の峰は噴水口の壁のいろいろな割れ目から蒸気や白い煙を出していた.朱色の峰,噴煙,水蒸気ーーーこれらすべてが明るい青空に立っている.空気が澄み切っていたので,私は火山の様子をすべてはっきりと眺めることができた.とくに私が火山前方の連山よりも高い地点に到達したときに,よく観察ができた.私がこの火山の地理的位置を正確に掴むのには2日もかからなかったが,駒ケ岳でないことだけはすぐに分かった.この山の火山活動は活発である.わたしは昨夜30マイル(約48キロ)も離れたところで,この火山から火焔の上がるのを見た.アイヌ人はこれを「神」であると言ったが,その名前を知らなかった.その火山の麓で暮らしている日本人も知らなかった.その火山からかなり離れた内陸部には,大きな円屋根のような形をした後方羊蹄山(シリベツアン)が聳えている.この山の全景は雄大である.」

 

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