2015.11月12日・快晴。晩秋のイタンキ浜を歩いて小冒険気分を味わい、さぁ帰ろうかと歩いていると・・・

向こうからこちらへ歩いてくる人。あれ?あの歩き方・・・帽子・・・「あの 大石さんでらっしゃいますか?」 「はい」

「大石さん、砂浜も歩かれるんですね!」 「週に一回ぐらい、下も歩くんだよ」 

「上の道は歩いたことあるかい?」 「はい!何度も歩かさせて頂いてます!大石さんが手入れしてくださってるトレイルを」 

「そうかい」と嬉しそうに目を細められた。「とにかくイタンキが大好きで、車を走らせて来ちゃうんですよ」 「へぇ、車でかい」

トレイルの話をしながら上を見上げた大石さん。「あそこの崖に、穴が二つあるの見えるかい?」

「はい。洞穴ですかね?」 「あそこに布団を持ち込んで寝泊まりしてた人がいたんだよ」 

 

「えっ?あんなところにですか?」 「近所で布団を干していた人が、無くなったことがあったみたいなんだ。それ、上から落として持ち込んだんだなぁ多分」

「じゃぁ夏場ですね?冬、あんなとこで寝れないですよね?」 「あぁ。それから少しして、もっと先の崖の下で、亡くなってた人がいたんだ」

「あらぁ・・・そんなことがあったんですか」 「布団から長靴から、上の洞穴にあってさ。あそこら辺り、大きなフキがあって、それを取りに行ったときに見つけて、警察にも連絡したんだ。3年くらい前かなぁ」

 

「行ってみるかい?」

 

今日は、買い物に出て、あまりの天気の良さにふらっとイタンキに来て・・・あまりの綺麗さに気分が高揚して砂浜を歩き・・・なので身なりは完全に町着。スカート・カーディガン・ブーツ・ハンドバックという出で立ち。しかし、せっかくのお誘い!なんとかなるだろう!「はいっ!」

「じゃぁあがってみるかい。」 即席探検隊の誕生である。人数は二人だけれど。

きっとトレイルのような細い道があるのだろう・・・と思ったら、笹の急斜面を上がりだす大石さん。

 

獣すら通った形跡もない急斜面。必死で大石隊長について上がる。すこしあがっては「もうすこしだ」と励ましてくれる隊長。

どう見てもまだかなり先は長そうだが、隊長に声をかけられるともう少しのような気がしてくる。

 

ようやくたどり着いた洞穴。洞穴というよりは、削られた崖がちょうど屋根のようになっている感じである。右側の穴は10畳以上の広さがある。「ここに布団があったのさ。すっかり片づけてくれたんだなぁ」 つかの間の現場検証。

帰りも大石隊長の後ろを、しっかり付いて下った。

 

「いやぁ、悪かったね、あんなとこまで。女の人連れて歩いて。大丈夫かい?」 「はい!大石さんに連れて行ってもらわなければ一生行くことのなかった場所を見ることができました。ありがとうございます」

 

人生85年生の大先輩が、イタズラっぽい笑顔で仰った。「まぁ、これも冒険のひとつさ」

 

いくつになっても冒険はできるんだ。はるか先の海の向こうであろうが、住み慣れた自宅の近所であろうが。

 

大石隊長に頂いた傘を手に、イタンキを後にした。

 

 

 

 

2015.11.12 撮影・文中村 麻貴