児童図書館「鉄のおもいで」 について知っていることをぜひ教えてください

「鉄のおもいで」 篠原勝之

 

「泳がせておく  これに限るのだ」  井上陽水

 

「鉄のおもいで」という篠原勝之氏の絵本を開いた途端 「泳がせておく これに限るのだ」井上陽水推薦!!という帯が目に飛び込んできた。

 

製鉄の町、室蘭近郊で生まれて育ったから、篠原勝之は還暦を前にした現在に至っても、鉄に囲まれて暮らしているのだろうか、といった疑問自体があか抜けていない。そんな単純な推測を軸に、彼を分析しようとするような者は、たいがいは田舎者で、羞恥心というものが欠落している。それでは、石炭を産する筑豊出身の俺の家の庭に、ボタ山がないと話がイナセでないことになる。

泳がせておく、これに限るのだ。クマさんは遊ばせておけば、楽しそうにしているし、ひいてはそれが、世のため、人のためになっているのだから。 

 

「製鉄の町で育ったクマさんだから子供の頃の思い出を絵本にしたんだろうな」手にした時の私は陽水氏が言われる「イナセでない」そのものだった。幼い子供向けの絵本だからという思い込みもあった。「絵本は子供のもの」という考えを今後改めよう。これは正しくゲージュツだ!!

 

鉄くずの山に集められた鉄たち

時代の要求から高性能に製品化された鉄がフルに活用され、人々を豊かにし、移り変わる時代と共に劣化して一旦は錆びつき鉄くずの山となる。

 

鉄くずたちの自慢話

今はもう鉄くずなので、どれもこれも同じなのだが、自分が最も素晴らしい功績を残したのだと自慢話を繰り広げる。「ぞうきんやカーテンまでいれたら、地球ひとまわりぶんはぬったわ。」というペダル式の足踏みミシンや、時速80キロで走ったと自慢するレース用の自転車を馬鹿にして「おれのスピードというのは、馬を千頭あつめた力より凄かったんだ。」という世界のサーキットで戦ったF1エンジン。今ではすっかり錆びついてコマドリの親子が住み着いている。鉄たちはいっせいに自分が一番役に立ったのだと議論し始める。役には立ってはいないけど、地球に突撃した時に鉄分が溶けたから地球よりも年上なのだと石ころまでも話しだす。

 

新しい命が吹き込まれる...再生

ある日鉄という鉄がマグネットクレーンに吸い寄せられ、製鉄所の巨大な溶解炉で溶かされる。鉄たちは「おしまいだ、おしまいだ」とうめきだしますが「安心しろ、とけたって、なくなりはしないんだ。新しくなるだけだ。」と誰かの声。鉄たちはミシンも自転車もF1エンジンも何もかもの思い出が一つになり、錆もない新しいピカピカの便利な道具へと生まれ変わりました。

「けれどすぐに、さびははじまります。そしてさびでいっぱいになったとき、また鉄には、たくさんの思い出ができていることでしょう。」とクマさんは結んでいます。

 

泳がせておく、これに限るのだ。クマさんは遊ばせておけば、楽しそうにしているし、ひいてはそれが、世のため、人のためになっているのだから。」

冒頭の言葉が改めて浮かんできた。受け止め方は人それぞれだが、再生は鉄の事だけを綴ったものだろうか?過ぎてきた時間を一区切りして、今そして未来を考えるべきではないか。私のつたない想像は広がる。今この瞬間も楽しく泳ぐゲージュツ家クマさん。貴方をもっと知りたい。

http://kuma-3.com/クマさんの公式サイト

 

篠原勝之(しのはらかつゆき)

1942年札幌生まれ。鉄の街、室蘭で少年時代を過ごす。上京後、絵本、舞台美術、小説、エッセイなどで活躍し注目を集める。1986年から鉄を素材に作品を作りはじめ、以降モニュメントなどのダイナミックな造形を全国各地に生み出している。通称は「鉄のゲージュツ家、クマさん」。最近は、ガラスを溶かして巨大な作品を発表している。

「斜体部分は、1997年7月25日 第1刷発行 「鉄のおもいで」より抜粋させていただきました。」

 

「2016/10/27 菅原由美」