大沢町から海の方へ登った断崖の上には,永い年月の中でひとびとや動物が歩いた跡が踏み分け道として残っている.この近辺のトレイルを去年草刈りしたり歩いたりして楽しんできた.

 そこへ最近ソーラーパネルが大量に設置されたというので,トレイルがつぶれてしまったかもしれないと思い,完全な雪解けを待ちきれず偵察してきた.去年わたしがハサミで草刈りしたあたりは重機で整地されており,トレイルとは呼べない状態になっていたが,海側の迂回ルートはしっかり残っていた.

 5年前の3月11日,マグニチュード9を越える地震は大津波を発生させ,多大な被害をもたらすと同時に「絶対安全」という神話の下に動いていた海岸沿いの原子力発電所は爆発した.5年以上経った現在(2016年3月)も,原子炉を突き破ったウランはコンクリートの上に転がった状態だという.日本全国の原子力発電所は,安全性の再確認ということでほとんど停止しているが,あれほど「電力の安定供給のために必要」と言われていたわりに,なにごともなかったように今日も電力は安定供給されているのを不思議に感じる.

 しかし,5年の歳月と,数百kmという時空を越えて,あの爆発の影響はわれわれの日常に影響を及ぼしてくる.再生可能エネルギーの筆頭として,この列島の至るところに太陽電池パネルが増殖している.

 誰をつれていっても,その絶景ぶりに言葉を失うほどの美しかったイタンキ断崖の上も,笹が剥がれ太陽電池パネルが,その一部を覆っている.

 昨年の秋には,鬼怒川が台風の大雨で決壊したが,太陽電池パネルを設置するために山を削ったことが原因ではないかと疑われている.その時々で,最善の判断を下しているつもりの人間の営みも,長い年月と広い範囲で思わぬ因果がめぐるものであることを,ついつい忘れている.さて,この流紋岩の上に設置されたパネル群もどのような結果に至るのか.

 何年か後,耐用年限を過ぎたころ,全国の廃棄物処理場が太陽電池パネルの山となる気もするが,7億年以上も放射線を出し続ける濃縮ウランが,コンクリートの上に無造作に転がるよりはまだましな気もする.

 太陽電池の脇のトレイルは生きている.

  太陽電池パネルがトレイルを削りとるなら,そこを迂回して歩けばいい.歩き続ければそこは新たなトレイルになる.

 トレイルは死なず!

 

(2016.3.20 Yasushi Honda)

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