2015年12月19日に港の文学館で行われた「本との出会い〜あなたの今年の一冊」に参加して、「親なるもの・断崖」を紹介させて頂きました。本田泰さんが葉山嘉樹氏の「海に生くる人々」を、菅原由美さんが三浦 清広氏の「長男の出家」を見事なスピーチで発表されました。作品を読んで記事で紹介させて頂くのも大変なことですが、人前で話すのは思っていた以上に緊張し、何を話しているのかわからなくなる始末。伝えしようと思っていたことをうまく言葉に出来ず・・・終わってから反省。でも会場にいらっしゃるのは皆さん文学を愛されてる方ばかりで、会場は終始穏やかな緊張感と発表者を見守る暖かさに包まれていました。

本の紹介者は高校生を含め12名。それぞれの方の本の選び方、読みかた、紹介する話し方、どれも興味深く参考になることばかり。

トップバッターでお話してくださった高校生の女の子は【万能鑑定士Qの事件簿】という本を「ミステリ―なのに誰一人殺されたりしないところが好きなんです」と紹介してくださいました。

小林事務局長の本は【私を離さないで】。臓器移植の臓器欲しさの為にクローン人間を作る・・・というもの。怖い内容ですが医科学が進歩する現代...荒唐無稽とは笑えない気がするのがなおさら怖くなりました。2016年早春、ドラマにもなるということです。

3番手の高校生の女の子の本は【愛、深き淵より】という頸椎損傷で全身麻痺となった青年が、地獄のような苦しみの中から自らの口に絵筆をくわえ、文章や絵を描くようになったお話。己の不幸を恨み人をねたみながらの入院生活当初。「人を許せない苦しみは、手足を動かせない苦しみをはるかに超えてしまった」という言葉が胸に刺さりました・・・と実に丁寧に、熱心に伝えてくださいました。

後藤茉梨栄さんは、とにかく頭の中に図書館が詰まっているような高校生。【厭な物語】という短編集を紹介してくださいました。「人は時代と対極の事を本に求める。争い戦いに明け暮れていた時代は平和こそが非・日常でその時代の作品は平和を書いたものが多い。平和な現代は対極の戦争・ホラーなどを好む傾向にある」との意見には驚かされました。

元、金融機関にお勤めされていた方は【ミッション】。元スターバックスジャパンのCEO・岩田松雄氏のビジネス書。「人が働くということはお金を稼ぐだけではいきどまる。ミッションを持つべきである」というような内容で、とても興味をそそられました。

登別で司書をされている女性が紹介してくれたのは【夜と霧】という、ナチス時代の強制収容所を生き抜き、精神分析学者」となったユダヤ女性の体験記。「これは読むべき本です」と強く勧めてくださいました。

9番手も女性。1980年に起こった新宿西口バス放火事件の被害者・杉原美津子さんが書かれた【ふたたび、生きて、愛して、考えたこと】。燃え盛るバスを偶然通り掛かった報道カメラマンが写真に収め、スクープ記事として新聞紙面をかざる。そのバスに妹が乗っていたとも知らず・・・。全身の80%に火傷を負いながら生還した作者は兄を許せず、犯人には許しの心を持ったと。火傷の治療がもとで肝炎から肝臓がんを発症し、2014年他界された杉原さんの本を熱く語ってくださいました。

ビブリオバトルで優秀な成績を収めたという高校1年生の男子は、【あなたへ】という詩集を紹介。自分がどうして誌が好きになったかということをイキイキと話され、「もっと国語の授業でも,詩を取り上げて欲しい」とアピールしていました。

トリの室蘭文学館の会会長・横田挺一氏が紹介されたのは、先日他界された野坂昭之氏の【オペレーションノア】。無駄な人間を排除し、日本の人口を半分にしようというプロジェクト”オペレーションノア”。故・三島由紀夫氏のお話や、村上春樹に向けた対抗心のお話などもとても面白く聞かせて頂きました。

 

最後の挨拶で、途中から参加されていた井村敦さんが紹介されました。井村さんは北海道新聞文学賞創作・評論部門の本賞に輝やかれたそうです。「私も長いこと読んで書いてきました。本は読んで読んで読んでいくと必ず書きたくなります。みなさん、どうぞ読んでください。そして書いてください。書いたものは、読み返して”ああダメだ”と思っても捨てないでください。何十年かしてそれを見たとき、納得することがありますから」と教えてくださいました。

 

今までは 本を読むということは自分一人の楽しみでした。本を読むことで自分の心の在り様がわかったり、励まされたり。

読んだ本を文章にして紹介する

人前に立ち自分の言葉で紹介する

この、今まで経験したことがないふたつの体験で「本を読む」ということが一人遊びの域を超え”輪”になり始めました。、他の読者の意見や価値観を伺うことができたり、作者の気持ちを慮ってみたり・・・一番は「読んでもらいたい」と思うようになった事。

これからも「読んでもらいたい」と思える本との出会いが きっと待っている・・・

 


2015.12.22 中村 麻貴


 

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