マルセラン・ベルテロ酵母細胞を粉々にして、細胞の残存物から目を瞠るふるまいをする化学物質を抽出した。この化学物質はスクロースグルコースフルクトースに変えるという化学反応の引き金を引く。この反応でその化学物質は消費されなかったため生命プロセスに不可欠である。マルセランはこの物質をインベルターゼと名付けた。

・インベルターゼは酵素であり、酵素触媒である。触媒は化学反応を促進し、反応を劇的に加速させる。つまり、酵素は生命にとってとりわけ大切である。酵素がなければ生命にとって最も大切な化学プロセスが起こらなくなってしまう。

酵素の発見は生物学者の一致した見解の礎となった。つまり、生命のほとんどの現象は、「酵素触媒する化学反応」の観点から理解するのが一番わかりやすいということである。

・ほとんどの酵素はタンパク質からできており、タンパク質はポリマー(重合体)と呼ばれる鎖状につながった長い分子で細胞が作り出す。インベルターゼは512個のアミノ酸が特定の規則正しい配列でつなぎ合わさってできたタンパク質分子である。

ポリマー構造は、生命の化学のあらゆる側面にとって根本的に重要である。大半の酵素と他のすべてのタンパク質のほかにも、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)などは全部ポリマーである。生体のポリマーは基本的に、炭素、水素、酸素、窒素、リンのたった5つの化学元素からできている。細胞内で見つかるポリマーの多くはあまりにも大きいため、「高分子」という特別な名前が与えられている。タンパク質ポリマーは炭素を基にしたポリマーで、通常は数百から数千個の結合した炭素原子からできていてそんなに長くはない。しかし、化学的にはDNAよりはるかに変化しやすく、それが酵素として機能し、代謝で主要な役割を果たすことが出来る主な理由である。