第2部「親なるもの 断崖」 について知っていることをぜひ教えてください
第2部「親なるもの 断崖」
新開地で働く男たちは
女なしではいられない
北海道ではどんどん
女郎屋が誕生し
これが政府許可の
遊郭となると
おっぴらに営業する
男は女を買う
(この玉代は
税金込みなのである)
その税金は
国の政治を運営する
一部になる
(政治は女を物扱いしている)
それが
公娼制度である
「第1部より抜粋」
貧しい家で生を得た女は家を守る為に海を渡り、ひと握りの金の為に遊郭へと身売りされる。一夜にして10名以上もの客を取らせられる時代。それは大きくなったお腹を蹴られ、相手が誰であるかさえも特定できぬ赤子を死産したばかりの身体にも容赦なく襲い掛かる現実。ある女は初めて客を取らされた夜に自決し、ある女は病気にかかり命を落とす。女は意思を持たされぬ物以下であるのに、女を売る遊郭がある故に街が繁栄し秩序が守られるという矛盾の世の中。それが、昭和33年4月1日、売春防止法が全施工されるまで続いた「幕西遊郭」であり、東洋一の兵器工場を持つとされていた北海道の重工業の中心地、室蘭の当時の姿である。
昭和2年、青森から北の海を渡り幕西遊郭に身売りされてきた4人の少女のうち2名は息絶え、残る2名と共に室蘭の地に生きる人びとが戦争に翻弄されながら生きる姿が描かれているのが第2部である。
ひとりは、鬼のような女将の元辛く厳しい修行に7年励んで日本国一の芸妓となり、恨みつらみを返すように女将を踏み台にしてのし上がる。
残されたひとりは、これもまた幕西遊郭で右に出るものがいないとされるほどの遊女に育ったが、生まれて初めて愛した男の反軍国主義の片棒を担いだとされ生き地獄から更に奈落の底へと落とされることとなるものの、名の知れた人物から身請け話が起こり白無垢で嫁ぐことに。嫁いだ相手との間に女児を儲ける。しかし、身請けされ良家の嫁となっても女郎の過去は消せるものではなく周りの激しい仕打ちの末に姿を消してしまう。最愛の母に捨てられた女児が恐ろしい戦争の時代に母の真の面影を追い求めながら生きていく。
忘れるな!
次の時代を
生み出すのは
女性だと
いうことを!
どんなに苦しくても
耐え抜いて生きた
人間がいたからこそ
次の時代と文化が
生まれてきたのだ!
その本流は女性だ!!
本流は女性だ!!
これが、生き地獄で生き残った二人が共に誓った生き方の道しるべである。どんなに苦しく惨めであろうとも死なずに生きるという事が何よりも尊いことであるのだと。女は子を産み、その子がまた次の時代を築く子を産むことが出来るという事に希望を繋いだのだろう。
満州事変 日中戦争
そして太平洋戦争
それらを総称して
15年戦争と呼ばれる
日本人のほとんどが
この戦争に加担し
協力して戦った
当時
戦争に反対した
国民は少なく
それは
「非国民」と呼ばれ
国家権力により
ほとんどが
抹殺されていた
指導者の命令とはいえ
戦争に協力し
数々の残虐行為を
行った人たちの多くは
民衆であった
その民衆とは
自分の父であり
愛するひとである
平和な時代に
妻を愛し
子をいつくしみ
平穏な生活を
送っている人々が
帝国主義や
軍事主義の思想に
とりつかれていったん
戦場に立つと
魔性の人間に
豹変する
そこに戦争のもつ
恐ろしさがある
それが
同民族
同じ国民にも
容赦しない
間違った
思想を生み
信じることほど
恐ろしいものはない
「親なるもの 断崖 第2部より抜粋」
女の命を土台に繁栄した幕西遊郭も姿を消し、鉄の街で有り続けながらもこの鉄を、ニ度と戦争には使わせないという決意は強く固められてもいる。世界レベルで間違えた思想のもとでの戦争に強烈にのみこまれ、砕かれた室蘭。平和という文字が失われていた時代は計り知れない傷跡を残しているものの、戦後の復興が進むと共にその場に居合わせずに済んだ次世代の私たちの中からはその痛みも薄れつつあるのかもしれない。でも、その痛みを体に刻んだ人たちの血を受け継いでいるのが私たちでもあるのだという事を忘れないで居たいと。
「耐え抜いて生きた人間がいたからこそ次の時代と文化が生まれてきたのだ」
戦争を二度と繰り返さない為に、そして人の命を犠牲にしない為に、この教えを次の世代に紡ぎたいと思った。だから、私たちはこれらの現実から目を背けてはならないだろう。室蘭には未来を創る技術があり、それを形にできる人財があるのだから。
[2015/7/19 菅原由美]