親なるもの 断崖 について知っていることをぜひ教えてください

曽根富美子(1958~)

天塩町生まれ。9歳で登別市に来た彼女は、室蘭商業高校2年生の時「りぼん」の第8回新人漫画賞で 佳作二席に入選。その年末の正月増刊号「千聖子」でデビュー。

 

卒業後上京し、経理の仕事をしながら作品を書き続けていたが 漫画家になる夢をあきらめきれず1年で退社。漫画家のアシスタントを経て、1982年秋田書房から「泣き虫の推理」を刊行。その後も 文学・歴史・カードローン地獄・子どもの虐待・自閉症児の世界・学校のいじめ と重いテーマのものを主に、社会派作品を数多く刊行。

1992年 「親なるもの 断崖」 で日本漫画家協会優秀賞受賞

「バラ色のほっぺた」 「ファーザー」 「女に翼なんてないのに」 「ブンむくれ」 「レジより愛をこめて 〜レジノ星子(スタコ)〜」 など数多くの作品を送り出している。

 

《 室蘭市港の文学館・曽根富美子コーナー展示パネル参照 》

 

 

 


室蘭は私の故郷である。市内にある高平町という、山を切り崩して作られた土地に私の通った高校があり、当時バスもとおらない、いまいましい山道を毎日登り登り通った。校舎からは、半円に広がる海と工業地帯、連なる工場の煙突がどの窓からも見えた。クラブ活動で遅くなったに日には、坂道を下るにつれて、次第に平らになっていく室蘭の町の夜景が見渡せた。

高校卒業と同時に上京した私は、いつかなつかしい室蘭の町を舞台にした作品を描きたいと思うようになっていた。十数年後、その思いが実現した。

室蘭には大きな断崖がある。地球岬である。語源は ”ポロ・チケウレ” 親である・断崖。その言葉に惹かれて、私は室蘭の歴史をひもといた。資料は集まり、山積みとなった。その資料の中に “幕西遊郭” があった。私の故郷に、私のまったく知らない世界があったのである。遊郭・公娼制度・女郎・初見世。胸をつかれるような言葉が「室蘭風俗物語」から次々と飛びだしてくる。それは昭和33年まで幕西坂に実際に存在した、幕西遊郭の実態を取材、調査し、その制度と歴史を記録した貴重な資料となったほんである。 

その中から浮かび上がってくる、歴史の群像に私は呑み込まれた。

そして私の中に4人の女の子が出現した。

《 親なるもの断崖・あとがきより 》


生きる場所も選べなかった時代

 

馬に蹴られ寝たきりになった父の代わりに家族を養うため、心通わせた許婚に遠くへ奉公へ行くと嘘をつき 着いた室蘭「富士楼」でその日のうちに客を取らされ首をくくった松恵。”売られてその日に首くくって死んだなど親にいえない・・・”もう二度と、死んでも会うことのできぬ親と姉を思い、姉の分の借金をも背負い初潮も迎えぬ11歳の幼い身体で客を取り「娼姑(女郎)」となったお梅。その美貌と知性が女将の目にとまり、血反吐を吐くような辛い稽古を重ね「幕西遊郭一の芸妓」へと上っていく武子。不器量で親にまで「こんな金にしかならない親不孝もん」とののしられ、器量よしの芸妓・娼姑に憧れを抱きながら過酷な下働きをおくる道子。

貧困に喘ぐ東北・青森から 工業でにぎわう室蘭「幕西遊郭」へと売られてきた4人の少女の物語。

小さい時から器量よしで「お前は高く売れる」と育てられた武子。一本(一人前の芸妓)への道をつきすすむ。 ひたすら辛い修行とイジメに耐えながら…落ちぶれて女郎になる恐怖と闘いながら・・・。しかし、ある日出会った同郷の貧しい船員に心奪われる。「帰るべ青森へ!おらと一緒に!」・・・帰れないことなどわかっていても。

道子は自ら望み転売された、ボロボロでみじめな男しか来ないような「女郎のタコ部屋」と言われるようなあばら家で「大衆便所」とののしられながらも懸命に生きていた。小さいころから栄養失調で弱かった体を振り絞り必死に働いた・・・田舎の家族に腹いっぱいご飯を食べさせたい一心で。

幕西遊郭の売れっ子娼姑となったお梅。芸者置き屋の女将に挨拶に行った帰り、番頭の姿がみえず、好奇心からふと幕西坂を上ってしまう。そこから見えたのは、海がみえる港・工場の長い煙突・赤い煙。ーここが室蘭か。ここで生まれ育った人もおるだな。ここが故郷の人もーしかし足抜きと騒がれ見せしめに折檻を受ける・・・「塀の上から見上げる青空しか知らずに死んだ女もたくさんいる。そんな女たちの事、考えたことがあるか。お前は女郎だ!」・・・景色を見ること、そんな些細な楽しみも許されずに、塀から見上げる空だけが「自由」。 帰りてえなぁ・・・そのほかは なぁんもいいことなくっていいからよぉ

幕西坂で出会った 室蘭で名士の医者の子息・中島聡一と女郎という立場を超えて全身全霊で恋に落ちる。「無学なのをあたり前と思うな!自分が女郎でいることに疑問を持て!忘れるな、新しい時代を生み出すのは女性であることを」

時代は昭和の初め。、製鉄所の工場は兵器を増産。日本が戦争へと突き進んでいく中 反政府主義者には徹底した弾圧が加えられた。お梅の部屋が中島聡一と仲間の拠点とされていたことが特高(特別高等警察)に知られ、地球岬で落ち合う約束をして逃げる時、お梅はボロボロになった道子を迎えに行く。「生き地獄を共にしてくれた、命を懸けて愛した男。一緒に三人であの故郷に帰ろう」 息も絶え絶えの道子を引きずって必死に地球岬にたどり着くも道子は命を落とす。「お梅ちゃんはおらのあこがれだべさ・・・」と血反吐を吐きながら死んでいった友の亡骸を、ポロ・チケウ【親である・断崖】へと流す。

貧しさの為親に売られたどり着いた室蘭。4人で立った場所。「死にたくなったらここに来い」と言われたポロ・チケウに。

生き残ったお梅に武子は「生きると決めたからには これからのお前の生きざまで人間に問え。女の強みを見せつけてやれ」と・・・


この本との出会いは ずいぶん前・・・普段コミックは読まないのに「幕西遊郭」を舞台にした作品に興味を持ち手に取った。それから20数年の年月を経て「室蘭文学」で再会。正直、圧倒され、打ちのめされた。コミックとはいえ自分の生まれ育った町の、明るくはない歴史の部分に気持ちがざわざわした。辛いなんて言葉では言い表せられない暮らしのなかで・・・貧しく、いいことなどなかったはずの故郷・青森への望郷の念。仲良しこよしではない、魂の引き合うような友への思い。

あまりの重厚さになかなか読み進まず、読み終わった後も本にとらわれた・・・素晴らしい本。

幕西坂を・・・地球岬を・・・イタンキ浜を ゆっくり歩いてみよう。自由に空を、海を眺められることに感謝しながら。

 

2015.7.10 中村 麻貴

 


半年ほど前から、やけにWeb広告で目にしていたこの作品。
以前から、幕西遊郭を舞台にした少女漫画があるという噂を聞いてはいたので、これのことかと思いつつ、
じっくり読みたいと思って機会を探ってて、最近ようやく読み終えました。

そこにあったのは、圧倒的にリアリティ。
室蘭で生まれ育った身だからこそ、作中の情景がありありと想像出来すぎて、恐ろしいほどでした。

華やかかりし頃の室蘭。表向きは華やかな幕西遊郭。そこで生きるというのがどういうことだったのか。
当時の人たちがどのようにして戦争の狂乱に走ってしまったのか。どうして止めることができなかったのか。
このまちが、北海道が、どんな人たちの苦しみの上に築かれてきたのか。
僕たちがふるさとと誇るこの室蘭がどれだけ血に染められているか。

たぶん、これは室蘭市民が忘れてはいけない記憶。決して繰り返してはいけない歴史です。
だからこそ、語り継がなければならない。。

きっと、幕西遊郭が無くなって普通の住宅地になったように。
艦砲射撃で血の海になった中島町が一大商業地帯になったように。
この記憶を忘れ去ってしまいたい。なかったことにしたい人は多いはず。
今更掘り返されることを望まない人もたくさんいるはず。

だけど、それでも、この悲しい物語を忘れてはいけない。そう思うのです。

今も幕西町に残る、女郎部屋の跡と言われている建物

[2015/07/11 山田 正樹]

 

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