「あ、ネジバナが咲いています。ここにも生えるんですね」
「あ、三原山の山頂では、私もはじめてみました。すごーい。発見ですね」

西谷さんは何時も楽しそうだ。だから、大島からもどってもまたすぐに会いたくなってしまう。彼女と一緒に探検していると、彼女が「発見」を喜ぶから、自分も彼女のように「発見」しようと周りのものをよく見てしまう。そして、子どもの様に彼女に報告してしまうのだ。何を見つけても褒めてくれる。というか一緒に感動してくれるのだ。案内をされているというよりは、一緒に探検に出かけた気分だ。天気がよくても、雨が降っても、寒くても、暑くても、その時の動物の動きや植物の様子を楽しそうに観察している。案内されている僕らの行動も楽しそうに見ている。

彼女と最初に歩いたのは梅雨時の大島。野増(のまし)地区にある古い神社の森。漆黒の闇のなかだ。彼女は僕と連れのぶんの長靴を車につんで迎えにきてくれた。「今夜はね、光る茸を観るんですよ」と、もう楽しそう。用意してくれた懐中電灯を借りて、境内から外れて藪を漕ぐ。怪我をしないように、注意はしてくれるものの、勝手に歩かせてくれる。おかげで、生まれて初めて見た光茸は自分で発見することができた。

「大島ではスダジイの朽ち木に生える茸なんですよ」

写真提供 グローバルネイチャークラブ
 

「わー、すごい大きいの見つけてくれましたね」とか「あ、上に向いた朽ち木にこんなに生えている」とか、褒めてくれたり感動したり。

彼女が大島に暮らしてから、24年。看護師の仕事をしていたときに、当時の町立病院に空きができたので赴任。仕事の合間に海に潜っていたという。大島の海には四季があるのがいいという。溶岩のつくる地形に目の前を泳ぐ魚。春になるとプランクトンで濁る海。それを目指していろんな魚がやってくる。夏になると温かい潮にのってやってくる魚、秋になるとまた美しく済んだ水に、秋には秋の、冬の冷たい水にはそれぞれにぴったりの魚がやってくる。「潜ってて飽きたことがなかった」という。

都会に戻って、看護師の仕事に力を入れようとしたとき、大島のダイビングスクールのオーナーに引き止められ、ダイビングのインストラクターに成った。

子どものころから、生き物が大好きだった。同時に、理科の時間に教わった地球の回転を感じる為に、壁にじっと張り付いている所を通りがかった大人に「なにしてるの?」と訊かれ、「地球の回転を感じているの!」と応えるちょっと引っ込み思案で、変わっていたという。

西谷さんはいたるところで溶岩の地図や植物の資料を見せてくれる。客は集まって喜んで観る。保育士さんと園児のよう。

友人をさそってツアーに出たとき、言われた。 「僕、両親にこのガイドツアーをプレゼントしようとおもう。二人きりの旅行もいいけど、こうやってガイドしてもらって楽しんでもらうのがいい。両親を旅好きにしてくでそうだ」。 紹介したこちらも鼻が高い。