椿山 へ。
元町港から、岡田港方面に向かって都道をちょっと歩くと椿山がある。



引き戸を開けると「はーい、いらっしゃいませー」と、本当に明るくて元気な女将さんの声。なんだろう、この声だけで来て良かったと思う。こっちまで元気になっちまう。

ご主人のお母様と暮らすため、十数年前に大島に渡って、休んでいた民宿を再開。
「古くて狭いでしょう」とさらに明るい声の女将さん。
古い。狭い。隣と襖の和室6畳。それが妙に落ち着く。サザエさんの音が聞こえて今日は日曜日だったんだと思うのがなんともいい。襖を開け放てば、沢山で楽しめるのが良くわかる。古くても掃除の行き届いた部屋の心地よい。昔のしっかりした作りで、柱が多くぴしっと美しい梁。噴火や地震を何度かくぐったのだろうな。

 

風呂は女将さんのあの声で、宿に帰った順に入るように促される。遠慮する隙も、躊躇することもなく言われるがままなのが楽だ。




「お食事は、お部屋でね。だってね、狭いから、食堂が作れないのよ」ってまたそれはたいへんですね。
「昨夜はカメリアマラソンの前日で、二人で17人分ご飯おだししたのよ。お運びは主人なの」と楽しそうにいう。


煮物で驚く。
カボチャは菊の葉、那須は松毬、この下に菊の花の島大根は大将の従兄弟が差木地で作っているという。この大根が、出汁で丁寧に炊いてあって、口の中がこそばゆくなるくらい旨い。
ご夫婦二人で良く出かけるのだそうで、旅先でサービスや料理に思う所があると椿山に合う形にして取り入れ続けてきたという。

 


これ、一人前じゃないだろう。訊いても覚えられないほどの種類と量の時魚の刺身。これ全部いけるのかなあ。大将お手製の刺身醤油がある。島の青唐辛子と醤油と昆布と味醂を調合して寝かせていると。自分達が旅に出る時は必ず持ち歩くのだそうだ。じゃあ、わさび使わないほうがいいのかな?と言うと「好みだから。まず、食べてみて気にったらそのまま食べてください」と。ちゃんと旨い食べ方を提案してくれたうえで、でも、好きに食えというのがなんかいい。旨いと言ったら「もってけ」と刺身醤油をペットボトルに入れてくれた。で、二人以上で泊まると、金目の姿造りがつくんだそうだ。

 

焼き魚は金目の開き。じつは、金目の干物は始めてで、食べたことのないものってあるんだなあと、大将の醤油をかけて頭かららバリバリと。全部食べてしまった。

 

明日葉の胡麻和え。たっぷりなのがお腹にいい。

 

栄螺が品よく煮付けてあった。貝の甘みが出ている。だし汁も飲んでしまった。日焼けのご主人、自ら磯にゆき、海苔でもなんでもとってくる。ちょっとお話していたら、袋にいっぱい島海苔。それも生の塩水が着いたままのものをくれた。生の海苔なんて、なんて有り難いのだろう。今年は水温が低くて海苔がよく岩に着いたそうだ。

食べていると、さあ、明日葉の天ぷらが揚げ立てて塩をふって運んで来られた。

すげーと言うと「当たり前だ」と笑うご主人。いや「当たり前ですよ」とおっしゃったかもしれないけど、そんなかんじ。当たり前に揚げたてを食べさせたいのだと。この下にはアスパラと薩摩芋と隠元豆。揚げたての明日葉はやはり旨い。

このタイミングで「ご飯は?まだいい?じゃあ声かけてくださいね」と。酒飲みには嬉しいひとこと。酒がなくなる迄ゆっくりいっとく。しかし、まだ刺身もたっぷり遺ってるぜ。当面食事にとどっかない。どこかの部屋の女性が「そろそろご飯下さい」と言っている。お、僕だけじゃないなら、ゆっくり飲んでて大丈夫だったんだな。でもそろそろ飯に行くかと。

 

おやじ丼

だれが呼んだかおやじ丼。お客さんが付けた名前だそうだ。これは、島の名物鼈甲丼のアレンジで大将のオリジナルだ。伝統の武鯛だけだと物足りないと言って、何種かの白身魚を賽の目にしてブレンド。たたきのようにして、その上に大島の旨い自然薯のとろろ。これにオクラ。さらに島唐辛子を赤くなるで熟させて、これを大将が自分で挽いているという一味唐辛子。この味も癖になる。最初から卵を落とさないのは、生卵が苦手な人もいるからとだと。ここでも強く提案しておいて、客の好き嫌いにゆだねてくれる。勿論僕は、大将の言う通りにして大正解。ピカピカのご飯と出汁の利いた澄まし汁。

「あたしちょっと、そんなにわあというお嬢さんもぺろっと食べちゃったりするんですよ」と女将さん。「おやじ丼を昼に食べたいっていうお客さんがあってね、やってあげたいけど、朝と晩だけでいっぱいかなあ」とご主人。


口を揃えて「素泊まりでもうしわけないんですけどってお客様いらっしゃるんですけど、それ、逆にありがたいんですよ」という。お客様に喜んでもらうためにお料理をしているので、これは原価みたいなものと。素泊まりの宿代でなんとか回っていると大笑い。
ご夫婦お二人とも、お話好きで、学生さんの面倒を見た話とか、何度も来てくれるお客様の話とか、大島の魅力とか沢山話してくれるのだけど、ちゃんとこっちの話も良くきいてくれる。

苦情は怖いんだけど、是非教えて欲しい。治したほうがいいことも言って欲しい。ネットにも書いて欲しいという。一生懸命改善するからねと。

お昼は、二人で島中を外食して歩くのだという。お客様に食べたことのないお店のご案内はできないからと。

宿の門限はなしなのだそうで、つい夜の元町に出てしまいそうだ。僕は明日の朝ご飯たべられるおだろうか。

 

なんて、心配はいらなかった。

「椿山さん泊まってるの?あそこも評判いいわよー。お料理美味しかったでしょ」。元町のスナックで、ママと島のいい話をいっぱいして、道ばたのネコと遊びながら帰った。椿山の無線LANがやたら早いので、懸案の仕事が片付いたり、友人に写真を送ったりとか楽しんでいるうちにぐっすり眠った。

朝、7時。まずお茶のセット。昨夜のお茶を飲んでいたら、新しい急須、ポットと取り替えられちゃった。
時間通りに炊きたてのご飯と味噌汁。鯵の干物、納豆、温泉卵、煮物、鹿尾菜、香の物などが運ばれてくる。

食べ終わりを見計らって、いい香りのコーヒー。コーヒーが大好きだというご夫婦だけあって旨い。
素泊まりの客にもコーヒーを差し出すのだそうだ。

何をありがたがっても、料理を褒めても「んなもの当たりまだ」というお父さん。身体大切に。あんまり働きすぎないでね。

とうとう椿山に泊まった。地元の何人かに、椿山に泊まれ、椿山に泊まれとこの半年言われ続けた宿。

 

TEL:04992-2-1488
http://www.chinzan-web.jp/(外部サイト)

交通


大島バス
元町港より徒歩10分、バスを利用の場合は大島公園ライン大島公園行きで「支庁前」停下車、徒歩1分(バスの所要時間は概ね4分)
岡田港より大島公園ライン元町港行きで「支庁前」停下車、徒歩1分(バスの所要時間は概ね18分)
問い合わせ
04992-2-5522