帰りたくない幼稚園の放課後 「ねっこぼっこのいえ」上

2013年8月1日 0:28

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 玄関で、女の子が大泣きしている。お母さんが笑いながらしゃがんで待っている。僕の方を見て笑顔。訊いてみると、帰りたくないのだそうだ。

 

そんなに楽しかったの?

 

うん。

 

そっかあ。帰りたくないよねえ。でも、お姉ちゃんが学校から帰ってくるから、お家に帰ろうね。

 

 

 

 満面の笑顔の小林真弓さんが迎えてくれた。彼女はボランティア団体ねっこぼっこのいえの代表だ。ねっこぼっこには三つのひろばがある。

http://nekkobokkohome.blog92.fc2.com/

*「赤ちゃんひろば」毎週月曜日10時~15時、0〜2歳の赤ちゃんと保護者の方限定

*「みんなのひろば」毎週水曜日10時~15時、毎週金曜日12時~17時赤ちゃんからお年寄りまで、誰でも参加可能

*「学びのひろば」三つのグループで活動中。絵本を楽しむ会「ちいさなたね」、児童文学を学ぶ会「子どもの本を学ぶ会」、障がい理解の会「くるみの会」

 

他にドメスティックバイオレンスの勉強会等も開いている。

 

 

 

 

 僕がお邪魔したのは金曜日。

「大」 みんなのひろばの日だった。学校法人月寒キリスト教学園黎明幼稚園の放課後の施設を利用して、乳幼児とお母さん、ボランティアと称して地域の年配者や若い 研究者が集まって手伝っている。黎明は「しののめ」と読む。金曜日は少ないときでもで40人。多いときは80人。放課後になると、小学生、中学生がやって くる。

 

 第二次大戦直後に出来た月寒教会(つきさっぷきょうかい)の横にしののめ幼稚園がある。園の向かいは緑地で月寒資料館だ。しののめは東雲とも書かれる。夜明けを待つ一瞬をさす言葉。園児達に夜明けの光のように周囲を照らす存在になって欲しいと願う幼稚園の建学精神だ。

  園長先生が優しく話してくれる。「人の尊さを共に生きる」ことを園児に伝えたい。そのため園児同士のもめごとが大切な教育の糧だという。教諭達がじっくり 観察して、園児同士でお互いの意見を尊重して問題を解決するのを待つ。放課後は、勤務が終わるまで園児ひとりひとりの様子を報告し合い、体調、心、成長の 様子を共有する時間をたっぷり取っている。遊びを中心とした保育、異年齢のクラス、少人数による保育、自然との関わりを大切にした保育を柱にしている。

http://www.shinonome-youchien.com

 

 

 

 螺旋階段を上り詰めた狭い玄関の外で僕は靴の紐を解いていた。

  立ったまま片足を上げていると後ろから青年が登ってきた。僕は急いで、靴を脱ぎ、狭いところを「帰りたくない女の子」を跨いで中に入る。この家は、かつて 牧師さんがお住まいになっていた牧師館だった。幼稚園とは教会を挟んで反対側。教会の玄関の横に螺旋階段があって、二階にあがると入り口。丁寧に使い込ん だ決して広くない2DKを引き継いでいる。よく磨かれた台所でおやつを作っている。

 

  階段を登ってきた青年は北海道大学の院生さん。胸に斜めの汗の跡。「月寒中央」駅から鞄を斜めにかけて急いで歩いて来たようだ。靴を脱ぐなり、ガムテープ に「カゲ」と名前を書いて、ちぎって胸に貼る。僕も真似して「すぎやま」と書いて貼った。カゲっちは学術調査に訪れたあと、ボランティアスタッフとして毎 週通っているという。彼は政府や自治体の政策が打たれたあと、子育ての現場で何がおこっているのかを調べている。特に政策によって出来た場を、お母さん達 が広げて行くネットワークを見いだして、丁寧に追いかけているようだ。政策意図を越えて素晴らしい成果が見つかるという。

 彼の後を登って きたのは中国瀋陽からの留学生さん。彼女はあっという間にとけこんで、絵本の読み聞かせが得意な年配の女性と話している。「中国では祖父母の子育てへの関 わりが強いのですが、日本の都市はそれが弱いですね。コミュニティの繋がりが薄くなったと言われています。でも、札幌のこのような取り組みは、新しく社会 を繋ぐ、素晴らしいもの」という。

 

 カゲっちは、泣き虫の男の子が泣き止むタイミングがくるまで横でつき合う。冷たいお茶を飲んで元気になった少年は身振り手振りでカゲっちに話し始めた。

 

 

  カゲっちと話していたら膝に何かがしがみつく。たくみ君だ。3歳だろうか。

 

逆さま好き?

 

逆さま好き!

 

じゃ、逆さましよっか。

 

 

抱きかかえて逆さにすると大喜び。すぐに3〜4歳の子たちが僕の前に並び、逆さま大会。子どもの髪の毛の日向のような匂いがする。

 

 

 

  代表の小林さんに促されて、幼稚園の庭に向かう。螺旋階段を降りて、子どもが「忍者通」と呼ぶ通路の向こうは陽射しが輝いていた。しののめ幼稚園の園庭は 二つの空間。教室の前は砂場、鉄棒のコーナーで、砂場に水が撒かれていた。奥に進むと「公園ですか?」と思わず訊いてしまった。ホールの前の広場は大きな 胡桃の樹と葡萄の繁る園庭だった。ブランコと滑り台もある。プールが用意され、水遊び、どろんこ遊びのやり放題。脚を拭けば幼稚園のホールで走り放題。

 

 

 

 どろんこ遊びをする女の子がチョコレートやプリンを作ってくれる。

  「杉山さん!なんで靴はいているの?」とスタッフのちよぴーがいう。彼女は月寒教会の教会員で、しののめ幼稚園の元教諭であり、今は「ねっこぼっこのい え」のスタッフだ。ガムテープにマジックで名前を書いて貼っているのですぐに名前で呼んでもらえる。「しかたねえな」と、裸足になって泥の中へ。女の子達 は僕の脚に泥をかけてくれる。今度は、エステサロンだそうだ。大笑いしながら、裸足のお母さんが参加。僕のエステ仲間だ。並んで施術を受けながら世間話。

 冷たくて気持ちいい。靴を履いていた脚の熱が奪われる。

 

 

 

 

 笑顔の可愛いお兄ちゃんがいう。「杉山さん、気をつけて下さいよ。この子たち、いきなり上まで泥かけますからね。ズボン汚されますよ」。きっと子どもは、悪戯するくらい大好きなお兄ちゃんなんだと分かる。

 

 彼はけんちゃん。ねっこぼっこのいえのサブスタッフだ。自立支援の小規模作業所と同じ程度の時給を貰って働いているという。とても良い笑顔だ。ここまでくるには本人と周りの人々のもの凄い努力があったのだと容易に想像出来る。

 

2013.8.1 杉山幹夫

 

 

 

 

けんちゃんに成長させてもらった 「ねっこぼっこのいえ」中

2013年8月2日 16:50


「杉山さん、気をつけて下さいよ。この子たち、いきなり上まで泥かけますからね」。
一目で、子どもに悪戯されるくらい愛されているのが分かるお兄ちゃんだ。皆に「けんちゃん」と呼ばれている。
 

 

 

小林真弓さんが代表を勤めるボランティア団体「ねっこぼっこのいえ」で、子どもとどろんこ遊びをしていたら、声をかけてくれた。http://nekkobokkohome.blog92.fc2.com/

 

 けんちゃんは「ねっこぼっこのいえ」のサブスタッフ。自立支援の小規模作業所と同じ程度の時給を貰って働いているという。とても良い笑顔だ。ここまでくるには本人と周りの人々のもの凄い努力があったのだと容易に想像出来る。

 

  かつて、小学生のように何度も嘘をつき、ミスでもないようなどうでもいいことを隠すためにトラブルが繰り返し起こった。子どもと同レベルで喧嘩してしまっ たり、執拗に注意しすぎたりするので、母親達から苦情が出たことがある。けんちゃんはどの作業所に行っても三回と続かなかった。ところが、ここのボラン ティアだけは3年続いた。けんちゃんの嘘に傷ついて小林さんは何度も泣いた。

 

 彼の他にも、ニートや不登校の子が何 人もここでボランティア活動をした。子どもと遊ぶ「仕事」だ。そのうちに学校に行けるようになったり、働けるようになったり、2年くらいかけてゆっくり成 長しながら離れて行くという。そして、時々、元気な顔や疲れた顔を見せに来るという。まるで彼らの実家のようだ。

 

 けんちゃんは、まだ他所で仕事が出来る段階にないのかもしれない。ここでの成長を皆が観て来た。皆、彼のことが大好きだ。彼が引き起こす問題がスタッフのコミュニケーションを密にする。お母さん達との協力関係を生み出してくれる。存在するだけで私達を強くする天使だと。

 

 

「けんちゃんに、ここにいて欲しい」。

 

 

 でも、ここに居続けることが彼の人生にとっていいことなんだろうか。

  彼の暮らす「ケアホーム」、札幌市の委嘱で障がい者支援をしている相談員と、小林さん達は何度も「けんちゃん会議」を開いた。結局、総力を挙げて彼を迎え ることになる。そして、今、けんちゃんは大好きなねっこぼっこのいえで、サブスタッフとして働いている。子どもは彼と上手に遊んでいる。

 

 一人の不器用な青年が、札幌の街の福祉関係者とねっこぼっこのいえをしっかり繋いでくれた。そして、ねっこぼっこのいえのスタッフ同士の結びつきを強くしてくれたという。ねっこぼっこのいえで三年間過ごした彼は嘘をつかなくなっていた。けんちゃんは仕事を休まない。

 

 

 

なんだ、ここは。

 

 

 

  私立の幼稚園が放課後を無料でボランティア団体に貸して、教会は旧牧師館を活動の拠点に貸している。金曜日のサロンは12時に始まって、17時迄。最初は 小さい子だけだ。園児が残っているのかと思ったら、しののめ幼稚園には関わりのない親子も遊びに来ている。15時を過ぎると、小学生がやってきて、こんど は中学生がやってくる。卒園児が友達を連れてくる。http://www.shinonome-youchien.com/

 

 

 

「子育てサロン」といいながら、乳児から中学生、そして、母親、研究者、障がい者、教育者、スタッフ、近所のじいちゃん、ばあちゃんが集まって、ただただ楽しく遊んでいるじゃないか。青年も大人もここで、子どもの周りで幸せになって行く。

 

 

 

今日のおやつはフルーツ寒天。台所でスタッフのかざまさんがつくった。参加者からの差し入れのサクランボ。

  誰がどの子のお母さんなのか、何となく分かるとおもったら、親子が入れ替わって他所の子、他所のお母さんと遊んでいたり。「自分の子だと、なにかできない と、つい手をだして手伝ったり、ハラハラ、イライラしたりね。だけど、他所のお母さんに預けると、ちゃんといい具合に教えたり、放っておいたりしてくれる の。私も、他所の子ならいいお母さんになるのよ」という。

 

 

 

 

でも何で、幼稚園はただで施設をねっこぼっこに貸したの? それも、園児だけじゃなくて、だれでもいいよってことに。勿論、宗教的な善意は大前提だとはおもうけど。

 

  園長先生によると「これ以上先生たちを忙しくしてはだめ。放課後を保育園のような預かりの施設することはできても、先生たちに振り返りの時間をあげられな いと教育の質がさがっちゃうと園児のお母さんたちから声が上がったんですよ」と。さらに、母親達から「預かってくれるより、安心して遊べる居場所が欲し い」との声が上がり、自分たちで運営するかたちになったと。

 

 園は園舎を貸し出す議論をするなかで、地域に開かれることになんの疑問も持たなかったのだと。

 

 

 

 

次回、最終の記事はなぜこの活動が産まれたのかをお伝えします。

 

2013.8.2 杉山幹夫

 

 

 

 

 

 

子どもが街の人を繋いでくれる 「ねっこぼっこのいえ」下(最終回)

2013年8月3日 17:34


 「自分の子だと、なにかできないと、つい、手をだして手伝ったり、ハラハラ、イライラしたりね。だけど、他所のお母さんに預けると、ちゃんといい具合に教えたり、放っておいたりしてくれるの。私も、他所の子ならいいお母さんになるのよ」。

  毎週金曜日、多いときは80人の乳児、幼児、母親に加えて、放課後の小学生、中学生、お手伝いの青年、近所の奥さん、お爺ちゃん、研究者達、そして、ス タッフが幼稚園の放課後に集まる。参加者から参加費は取らない。ボランティア団体「ねっこぼっこのいえ」が運営する「ひろば」。場所はしののめ幼稚園が放 課後の施設を無償で貸している。そして、ここに集まる人々が地域を繋ぎなおしている。
http://nekkobokkohome.blog92.fc2.com/








 

 でも何で、幼稚園はただで場所をねっこぼっこに貸したの?
それも、園児だけじゃなくて「だれでもいいよ」ってことに。勿論、宗教的な善意は大前提だとおもうけど。

 

 

 

 

  学校法人月寒キリスト教学園黎明幼稚園(しののめようちえん)の園長先生によると、園が放課後の施設を利用した保育を検討しているときに、お母さん達から 声が上がったという。「これ以上先生たちを忙しくしてはだめ。放課後を保育園の様に預かりの施設することはできても、先生たちに振り返りの時間をあげられ ないと、教育の質がさがっちゃう」と。いい保育をしたいという先生たちの願いと、放課後、安心して過ごせる場所が欲しいという母親達の思いが重なった。母 親達は「預かってもらうよりも、安心して遊べる居場所が欲しい」と。自分たちで運営する方法を生み出していった。

 園は園舎を貸し出す議論をするなかで、地域に開かれることになんの疑問も持たなかったという。

http://www.shinonome-youchien.com
 

  小林さんに伺うと、園長が控えめに話された幼稚園側の誠実さが浮き彫りになる。「放課後をどうするか、しののめ幼稚園が地域のニーズを調査して、孤立して 子育てをしている親子が多いことを具体的に掴んでいたんです。その上で、この地域のなかにあって、園の施設をどんな風に活用するかを決めて行く会議を開い たんです。そして、その会議に私達母親を入れてくれたんですよ」という。
 教会が幼稚園をつくり、幼稚園が地域の中での役割を真剣に考え、母親達が自分と自分の子どもにとっても、後に続く母親達とその子どもにとっても一番いい環境を作ろうとした。
 そして、今、作り続けている。

 

 

 


 小林さんは自分の子どもが小さいときの話をしてくれた。その頃、とても大切な仲間がいたという。お互いの家を訪ね、一緒に公園で遊ぶ。同じように子どもを 持つお母さん同士の最高の仲間。助け合い、楽しく暮らした。公園に面した一階の部屋に暮らす友人親子のところに集まる機会が増えていった。ある日同じ建物 の二階の親子の話になった。大声で母親が子どもをどなったり、蹴ったりしているという。なんであんな可愛い子を虐待するんだろうと母親を批難する自分がい た。

 月の奇麗な夏の夜、みんなで集まってお月見をしていた。それを見ていた二階の女の子が出てきた。

 

 

 

 

なにしているの?

 

お月見よ。いっしょにお月見しない?

 

でもう。

 

 

 

血相を変えて母親が飛んでくる。

 

 

 

ごめんなさい。お邪魔してしまって、本当にすみません。なにしてるの、ご迷惑でしょ、帰るのよ。

 

 

 

小林さんは女の子が可哀想で、お母さんに強引にジュースを渡した。

 

 

 

 

私達こそお騒がせしてごめんなさい。はい。ジュース飲んでってくださいよ。ネッ、座って。

 

 

しばらくすると、そのお母さんは同じことを何度も繰り返し言葉にしていた。

 

 

こういうのいいですね。こういうお友達って素敵ですね。

 

 

 

  小林さんは彼女を責めていた自分に気がついて、とても悔しくなったという。なんてことだ。私が加害者だった。寂しかった、困っていたのはこのお母さんなの に。友達がいれば、娘にあたることもなかったかもしれない。それなのに、悪い母親として切り捨ててしまったのは私ではないか。

 

 

 

 誰もが気軽に集まることのできる場所を作りたい。

 

 

 

 

 ある日、ねっこぼっこのいえ。

 

 登校拒否の中学生の女の子が札幌市教育委員会が派遣するスクールソーシャルワーカーに連れられてやって来た。
 

 彼女は今、高校に行く為に勉強をしている。大学院生のカゲッちが勉強を見てくれる。彼女はたった四回ねっこぽっこのいえに来ただけで「学校に行ってみようかな」という気持ちになったという。

 

  いつも遊びにくる親子に二人目の子が産まれる。お母さんは中学生に赤ん坊を渡して「だっこしててね」と言った。「私はここにいてはいけない」と思わなくて もすんだ。彼女にはここにいる理由ができたのだ。赤ちゃんがうまれたばかり。上の子はお母さんを取られていたので、ねっこぼっこのいえにいる間、お母さん を独り占め出来て最高の気分だったようだ。


 不登校だった中学生は高校に行きたいと言った。でも、どうしていいのか分からないと。

 

 

私、英語なら教えられるかも。

 

私は国語かなあ。

 

お母さん達がよってたかって中学生の世話を焼く。

 

 

 かつて登校拒否だった子たちは「高校に行った後もコミュンケーションがとれないと辛いから、練習したほうがいいよ」と自分の経験から提案する。すると皆で方針を生み出して実行する。

 

 彼女を取り囲む十数名が彼女の「高校進学プロジェクト」を組んだ。
 一緒に勉強をしたり、自己紹介の練習をしたり、進学の為に必要なことを何もかも出し合って役割を分担し奔走する、彼女の為だけの時間が展開する。勿論、大学院生のカゲっちは最高の家庭教師だ。

 

  小林さんはこの中学生が来てくれるようになった半年前に近くの中学校に挨拶に行っていた。「ねっこぼっこのいえが不登校の生徒の居場所にもなるといいです ね」という話をしていた。そのときの教頭先生が覚えていてくれたので、全てが繋がってゆく。校長、教頭、担任、ソーシャルワーカー、そして、ねっこぼっこ いえの代表で会議を開き見守りと教育の方針を共有する。

学校に行けなかった少女が地域の教育と福祉の組織と人を繋いだ。

 


子どもは人を繋ぐ。

子どもは全ての大人を赦してくれる。

どろんこ遊びの仲間にいれてくれる。

「なんでも作ってあげるよ」と、積み木やぬいぐるみで「ごはん」を作ってくれる。
絵本を読んだら真剣に聴いてくれる。

 

その子どもの役に立ちたくて集まる人々が幸せになって繋がって行く。

 

 

 

「最初は、園外の子に開放といっていても、園の関係者しか来なかったんです。それが変わったのは、札幌市が私達のような民間の団体に札幌市地域子育て支援 拠点事業をまかせてくれてからなんです。わずかでも、有償のお仕事に出来たお陰で、スタッフが仕事として取り組めので、運営体制がとても強くなったんで す。そして、札幌市の名前がついたとたんに、地域の沢山の人たちが来てくれた。役所の信用ってすごいんですよ。心から感謝します」と小林さんはいう。

 さて、この広場は札幌市の事業に指定される前から参加費を取っていない。利用代金を取らないのは、小学生が一人で遊びに来られるように。みんなが気軽に遊びに来れるように。

 

  「忍者通」から続々と入ってくる小学生の眼差しが光っていた(ねっこぼっこのいえの建物から園舎に続くトンネルのような通路を子どもは「にんじゃどおり」 と呼んでいる)。普段はシャイな少年がここに来るとのびのびと身体を動かして、小さな子に優しくしている。幼児達からみると逆上がりできるって凄い。で も、そうだよな。一年生は小学校じゃ一番ちっちゃいんだものね。たまにはおにいちゃん、おねえちゃんしに来ないと。

 

 利用しているお母さんは賛助会員となることもできる。もちろん任意だ。一口千円の会費を「こんなに少なくてごめんね」と言う人も、多めに置いて行く人もいるという。



「子育て支援拠点事業って、なんか凄いものになるかもしれませんよ。だって引きこもっていた若者がここで元気になったり、今迄生きてて一番楽しい時間だって、大工仕事に来てくれるお爺ちゃんが言ってくれたり、子どもの周りで街が変わって行くの」。

 

 親しみを込めて「じいちゃん」と呼ばれるお爺ちゃんは、子どもと一緒に竹を割って流し素麺の道具を作った。今年の夏も園庭で流し素麺が行われた。じいちゃんの作品は一所懸命に箸をつかう子どもの笑顔に包まれている。
 

 

 

   小林さんは学校を出たあと、老人ホームで働いていた。そこで、嘘をつけない認知症の老人たちに深く愛されたことがある。人を信じる心をここで学んだ。愛さ れることの幸せを認知症のお年寄りに教えてもらったという。老人介護の役に立つようにと仕事をしながら夜間学校で学んで看護師になった。

 結婚し、子どもが生まれ、しののめ幼稚園と縁があった。今はこの仕事が辞められない。専門の知識も必要だと、今度は社会福祉の勉強を始めたそうだ。


2013.8.3 杉山幹夫




この記事は「ねっこぼっこのいえ」を取材させて頂いた三つの記事の最終回です。
 




なかなか泣き止まない少年の横で、泣き止むきっかけを待つカゲっち。