札幌再発見 地元を見つめて その3

北海道札幌啓北商業高等学校 商業クラブ

 

 

6.商品化に向けて

 

(1)開発の前提条件

 軟石の性能調査を終えて、私たちは、自分たちの商品を考え作ってみることにしました。前提条件としては、性能実験で挙げられたことがらを生かして、さらに石の見た目を極力生かすなど右の表のようにしようと話し合いました。特に私たちの商品は制作も自分たちで行うことを考えていたため、加工しやすさが大きな条件となりました。

 また、地元の札幌や南区石山をイメージするようなものや現在学んでいるマーケティングの内容も含めて、売れ筋である商品は何かなども考えていこうと思いました。

 

 

(2)既存商品の検討

 次に現在この札幌軟石で作られている商品を検討してみることにしました。株式会社辻石材工業様の採掘場を見学したときに商品化されていたものが、壁の建材でした。これを壁に貼り、石の風味を出すそうです。

軟石を使って、ガーデニングのための鉢なども作成しており、様々な形のものが飾られていました。

 端材を使ったものも置いてありました。先日説明をいただいた小原さんの作品に似たアロマストーンや石灯籠、モアイ像(滝野の霊園にあるミニチュア:モイワ像と書いてあった)などの商品もありました。

 

 

(3)商品化に向けて

 辻石材工業株式会社様のご厚意で、札幌軟石の端材をいただいてきました。私たちは、商品化に向けて、実際にどのくらい加工できるか、どのように制作していけば簡単にできるか、実際に軟石を使って試作をしてみました。

 多くの種類の端材をいただいてきたおかげで、私たちの中でもいろいろな商品を考えることができました。

 

<まずは描いてみる>

 小原さんからは、「白のペンで書くのが一番見栄えがするよ。」「水彩絵の具を使うと、水を吸収するので薄くしか残らないよ。」など多くのアドバイスをいただいていました。

 まずは、白いペンで輪郭を描き、地元の公園の名にもなっているスズランの絵をかいてみました。最初は軟石についている粉が邪魔をしてなかなか絵を描くことができませんでしたが、慣れてくると多くの絵を描くことができました。きれいに描くために、トレーシングペーパーを使って原画をなぞってやる方法も試してみました。

 地元に関連のあるものとして、石山のキャラクターでもある“いっしー”と“やまごん”を書いてみました。簡単にはできましたが、商品化のレベルではないという意見も出ました。

 大きな板の軟石もいただいたので、表札にできないかと考え制作したのが、右の写真です。軟石の色の特性上、濃い色は映えないので、薄い色(クレヨン)で色を付けてみました。

 

色を付けてみる>

 制作途中で、この軟石の色を変えることはできないかという意見が出されました。そこで、実際に水彩絵の具でいろいろな色を試してみました。

 吸水性が良いので、すぐに色は染まります。絵の具の分量や色の種類によっては、見栄えのするものもあり、商品化の参考になりそうだと思いました。

 

<商品化に向けての壁>

 私たちのオリジナル商品を開発するために、様々な実験や試作を行ってきました。しかし、実際に作ってみると様々な壁に当たってしまいました。

 何を商品化するのか、そのデザインはどうするのか、軟石をノゴギリで切ることや角をやすりで丸くするなどの簡単な加工はできるが、大胆な形にするための加工は学校の設備では難しいのです。その加工をどのようにするのか。実際に販売するにしても、大量には生産できません。生産をどのようにしていけばいいのか、その商品をどのように売ればいいのか、まったくノウハウがない状況であるのです。

 このままでは、企画倒れになってしまい、私たちの石山軟石の取り組みが終わってしまいます。そこで、私たちは新たな協力者を探すため、私たちのメンバーがやっているTwitterやFacebookを利用して、簡単な内容を情報発信してみたりもしました。このようにして、これらの問題を少しでも解決できないか探ってみました。

 

(4)協力者を見つける

 そのような状況の中、私たちの活動をFacebookで見てくださった東海大学の平野庸彦先生から連絡をいただき、実際にお会いすることができました。

 東海大学の国際文化学部では、インダストリアルデザインという授業があり、商品のためのデザインを勉強していること。また、課外の取り組みとして、石山軟石を扱い、商品開発に取り組んでいること。辻石材工業株式会社様の小原さんとも面識があり、取り組みに協力していることなどをお話ししていただきました。

 私たちは、さっそく協力をお願いしたところ、快く引き受けていただきました。また、後日会社において、学生たちが商品プランを職人さんに対し発表することもわかり、同席させていただくことも許可していただきました。

 

(5)東海大学学生の商品プレゼンテーション

 7月上旬、東海大学の生徒が辻石材工業株式会社様の職人さんに向けて、自分たちの考えた商品アイディアをプレゼンテーションしました。当日は、私たちも参加し、大学生の皆さんのアイディアを職人さんと一緒に聞くことができました。当日は、用途別にアクセサリー班、置物班、照明班の3つの班に分かれて発表をしていました。

 アクセサリー班は、札幌軟石を使ったピアスとブローチを発表していました。石を細かく砕き、プラスチック板に張り付け、最後にラメなどをつけたり、色を塗ったりしてありました。また、ブローチはポスターカラーで薄く染めてあり、木の板に張り付けてありました。

 

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 置物班は、軟石をブロック状にカットし、さいころのような状態にし、カレンダーを作成していました。他にも、砂時計の形をした石を使って、水を吸い上げることで時間を計る水時計の試作品を説明したり、コップを置くと水滴で、時計の枠が現れるコースターの説明をしたりしていました。 

 

 最後に照明班です。石の輪を重ね、中にろうそくを入れ、その隙間から光が漏れる置物やかまくら型の照明などをプレゼンしていました。 

 

 

 一通りのプレゼンテーションが終わった後、私たちは一番興味のあったアクセサリー班の皆さんにインタビューを行いました。

私たちも考えていた色を塗ることに関しては、アクリル絵の具を塗り、その上からコート材を塗ることによって色が映え、石から出る粉を抑えられること。ラメなどは石の素材感を壊すことから、付けるかを考えていること。また、値段の設定についても意見を聞くことができました。

 

7.まとめ ~ これからの活動

 

今まで私たちは、地元の現状と課題を調査研究するところから、新たに、札幌軟石という“宝物”を見つけ、具体的な調査研究をしてきました。しかし、私たち独自の活動という点では、まだまだ始まったばかりです。

 私たちができる札幌軟石を使った活動。これからやるべき活動について考えてみたいと思います。

 

(1)札幌軟石の認知度

 私たちは、この研究を始めるまで札幌軟石について、ほとんど知りませんでした。地名として、付近には硬石山などがあり、石の採掘をやっていたことは知っていました。今回の調査でも、小原さんは「古くから石山にいる人たちにとっては、空気のような存在であり、身近にあるものとして考えるが、新しく住んでいる人や、札幌市内でもあまり認知度は高くないです。」とおっしゃっていました。

 そして、小原さんが独自に調べたアンケート調査の結果を見せていただきました。

 

 

 

 札幌軟石を見てすぐわかる人は、21.7%しかいないのです。32.6%は『札幌軟石』という名前はしっていたけど、どの石がそれか知らなかった。という答えなのです。

 次のグラフは上から10代、20代と年齢層別に回答を比較したものですが、「見てすぐ札幌軟石とわかった」という世代は黄色です。10、20代は居ないのですよ~~~(泣)それと同時に悲しいのは10代の「まったくしらなかった」66.7%!!

この結果を見て、私たちも状況を確認するために、7月におこなわれた地元のお祭りの会場に出かけ、インタビューをしてみました。

 小原さんがした質問と同じ内容について、私たちも雨の降る中、いろいろな年代の方にお話を聞いてみました。

 結果、30人弱に聞いたところ、ほとんどの人が石山軟石について理解していなかったことがわかりました。知っていた人は地元の年輩の人が多く、小原さんがおっしゃっていたとおりことがわかります。その反面、小学生が知っていた割合が多かったのです。なぜ知っているのか理由を尋ねると、「小学校の総合学習で学んだ。」ということでした。

 インタビューの結果から、まだまだ認知度の高くないことが判明したこの石山軟石について、私たちの手で認知度を高める活動はできないのかなと思いました。

 

 

(2)認知度を上げる活動とは

 学校へ戻り、何かアイディアはないか考えた際に、石山地区のキャラクターを思い出しました。“ゆるきゃら”といわれるこれらのキャラクターは全国でも様々あり、地域や特産品を紹介する目的で多数あります。

 私たちは、この“ゆるきゃら”の地域における役割を考え、自分たちがこの役割を担うことはできないかと考えました。札幌軟石を紹介する役割として、アンバサダーを考えました。一般的にアンバサダーとは親善大使のことであり、最近では商品やサービスの宣伝をするための役割として、活動しています。

 まだまだ認知度が高くない札幌軟石について、アンバサダーとして販売やイベントでPRをしたり、札幌市で行われている行事に積極的に参加したりする。これらの地道な活動から、石山軟石だけではなく地元石山や広く札幌の認知度を上げるきっかけになるのではないかと思います。

 これには多くの人の協力が必要になりますが、可能性を探りたいと思います。

(3)札幌軟石を利用した商品の開発

 札幌軟石の認知度を上げる活動の一つには、やはり軟石自体の魅力を上げることが必要になると思います。辻石材工業株式会社様では、多くの商品を扱っています。

今回の調査研究では、軟石の性能実験など原材料について知ることに力を入れたため、最初に考えた5つの前提条件にそった商品開発まで行き着きませんでした。

しかし、この商品の開発は、まだまだ始まったばかりです。東海大学の平野先生や学生の皆さんからは、できれば一緒に商品を作ってみたいといっていただきました。ぜひいろいろな人と協力して、自分たちの納得のいく“売れる商品”を作ってみたいと思っています。

 

(4)ネットワークづくり

 今回の研究では、多くの人との出会いがありました。出会いからいろいろな情報を得ることができました。しかし、それぞれの人が持っている情報には偏りがあります。

たとえば、辻石材工業様では、商品の生産についての情報は持っていますが、販売方法やどのような商品が売れるかなどの情報は少ないとおっしゃっていました。また、東海大学の皆さんは、デザインについての情報や芸術的な商品についての情報はありますが、原価計算や価格設定などの情報は少ないとおっしゃっていました。私たちも、マーケティングや簿記などを学んだ中から、商業についての知識は多少ありますが、生産や加工についての情報はほとんどありません。

そこで、それぞれの立場の人が自分の持っている情報をオープンにして、教えあうような仕組みができればいいと思いました。また、新たな協力者もどんどん作っていきたいと思っています。そして、札幌軟石にかかわる人たちのネットワークができると面白いのではないかと思います。

 

(5)私たちの思いを街づくりセンターへ

 私たちの今までの活動について、さらにアドバイスをいただくため、石山まちづくりセンターを訪ねることにしました。

ここは、石山地区の活性化のために、様々な取り組みをしている場所です。具体的には、石山地区のイベントの企画や町内会などの連絡調整などをしているそうです。中には、石山のキャラクターである“いっしー”と“やまごん”のキャラクターパンを考え、大手パン販売店で販売してもらったこともあるそうです。

 所長の吉山直子さんに、私たちは札幌軟石を使った商品を考えていること、イベントなどで札幌軟石を紹介するPR活動をやってみたいことを伝えました。

 吉山さんからは、様々なアドバイスをいただきました。札幌軟石の取り組みは様々な人がやっていること。石山地区には様々な芸術家が少なからずいること。私たちの知らないことをたくさん聞くことができて、とても有意義でした。

吉山さんは、「地域の学校の生徒が、地元のことに興味を持って活動をすることはとても素晴らしいことだと思います。特に商品については、様々な方法が考えられると思いますので、ぜひ頑張ってみてください。協力します。また、地元の行事の時には声をかけますので、ぜひ来てみてください。」とおっしゃって下さいました。

 私たちの活動は、前提条件として地元に貢献できるものと考えていました。ですから、ただ商品を開発して販売するのではなく、販売を通して、札幌軟石や地元石山を世間に再認識してもらう活動にしたいと思っています。そのためには地元石山の人たちの協力が不可欠になるでしょう。まちづくりセンターへの訪問をきっかけに、もっと地元の人たちとの交流をしてみたいなと思いました。

 

(6)活動の反省

 今回、私たちは、札幌軟石についての調査研究をしてきました。研究を進めていくうちにいままで知らなかった札幌軟石の現状を知ることができました。

 正直なところ、このプロジェクトを始めるまで札幌軟石という存在すら知りませんでした。地域住民の方でも知っている方と知らない方の割合をみると、知らない方のほうが多いというものでした。しかし、札幌軟石を広めていこうと活動している方たちとの交流の時間をたくさん設けていただき、札幌軟石や石山地区、そして南区という地域がたくさんの人たちに愛されている地域だということを実感しました。

 札幌軟石を使った商品は、お年寄りのかたに愛される商品が売れるのではと勝手に思っていたのですが、東海大学様のプレゼンテーションを見させていただいて、自分たちがおもわず「かわいい」と言ってしまうような商品がいくつもあり、幅広い年齢層の方に札幌軟石を知っていただき、是非ひとつでも手に取ってもらえるような商品を開発できればと思いました。

 札幌軟石を広め、道内だけでなく道外の方に知ってもらうことは、南区や石山地区の地域の活性化にもつながると考えています。現在、南区全体で高齢化が進んでいますが、このプロジェクトをきっかけに、かつて栄えていた札幌軟石の採掘や、札幌軟石の存在を思い出してもらうのと同時に、それを伝え、新たな人にも南区に住んでもらえるような魅力を持った街になればと思っています。

 しかし、現在、私たちが考えている札幌軟石の商品は試作品という形でとどまっています。そのため、商品化にむけて具体的なプランを立て、さらに札幌軟石のPRのための活動を考え、次年度につなげて本格的な活動を行っていきたいと考えています。

 

おわりに

 私たち北海道札幌啓北商業高等学校商業クラブでは、今年度新たなメンバーに一新し、新たな活動をスタートしました。テーマ決定の際には、漠然と地元地域の活性化について考えていた私たちに、インタビューを快く受けてくださった地域の人や東海大学の平野先生と学生さん、そして辻石材工業株式会社様のみなさんや小原さん、石山まちづくりセンターの吉山さんなど、たくさんの方の暖かさを知ることもできました。これらの出会いがあったからこそ、今年度の私たちの調査研究ができたのではないかと思います。

 これからも、私たちだけでは調査研究を続けられるものではありません。これらの出会いに感謝をしながら、この先もいろいろな人と交流をして、札幌軟石を多くの人に知っていただき、それが地域の活性化につがなればよいと思います。

 

 

【 参考文献 】

 

札幌軟石物語 http://www.ishiyama-net.jp/

 

辻石材工業株式会社様 ホームページ http://www.tsuji-nanseki.com/html/nanseki.html

 

札幌軟石文化を語る会ホームページ http://www.sapporonanseki.jimdo.com/

 

札幌市南区ホームページ  歴史/札幌市南区  石山軟石の今昔/札幌市南区 http://www.city.sapporo.jp/minami/