こちらで 農業生産法人輝楽里(きらり) を記述

 

2014.4.19
「風ですね」
石狩平野の真ん中。江別の強みを訊くとこんな答えが返ってきた。
「僕もやっと去年知ったんですが、平均風速7メートルもあるんですって。この風が作物を虫から護るんです」。

 


江別市にある5ヘクタールの露地アスパラガスの畑に石田雅也さんを訪ねた。冷たく気持ちのいい風が吹いている。南側には札幌を取り囲む、恵庭岳や手稲の山並み。北側を見ると暑寒別岳など留萌の山々の雪と青が美しい。強い日差しで背中はポカポカだ。



もともと江別を含め、気温の低い北海道は消毒や防除の農薬を沢山必要としない土地とされている。そのなかでも、毎日強く吹く風は、農作業の邪魔になり、アスパラを倒す厄介者とおもいきや、風により雨のあともすぐに植物が乾くため、蒸れたり、病原菌が繁殖したりしない。虫も付き難い。新しい二酸化炭素が沢山供給されるので、陽射しの全てを光合成に活かすことができる。北緯43度。日照時間の長い江別の夏。良く晴れた日には夜の気温が下がる。昼間つくった炭水化物はしっかり根に蓄えられて、翌年のアスパラの爆発的は萌芽の源となる。

 


「5月の中旬になったら、最初のころは朝6時かな。20人くらいで毎朝ガーッとまわって穫り始めますよ。みんなで食べて一番旨いと思った品種を植えてみました。一番旨い時季は、5月の末と6月の頭ですね。6月中旬まで出荷します」。

アスパラは収穫を終えたあと、伸び放題。植物としての営みが保証される。水草のようなふわふわに見える細く多肉な葉を思い切り茂らせる。これが、11月に枯れる迄、がんがん栄養を根にためるわけだ。ファーマーは強い風に倒れないように、支柱を立ててアスパラの生長を手伝う。植えているのはアメリカ系統の雑種第一代。雌雄の株を混食するので、種ができる。雄株だけの畑より自然に植物の力が出そうだ。最近の品種の中では同じ環境下での光合成能力が高いとされた、ウェルカムの後継、スーパーウェルカムという品種だ。残った刈り株を見て、連れが「竹か?」というほど太く立派なもの。実生から育てて今年で5年目の株。これからどんどんまた旨くなる。

 



有機栽培や無農薬をうたってはいない。江別には沢山の乳牛がいる。敷き藁や餌にと石田さん達がつくった麦藁をロールで持って行って、代わりに牛の糞を貰って来る。これに、また藁を混ぜて、2年は寝かせた完熟の堆肥を大量に入れた畑。アスパラの収穫後に、アスパラの防除をするのが通常だけど「あれ、去年防除したっけな?」というくらい。雨が少なく、良い風が吹き、夜温が低く、冬に生き物が去る寒さがゆったりさせる。農薬が少ない、化学肥料を使わないということは、労力も経費も下げる。

 


これは、アスパラの季節が待ち遠しい。この青年達が笑いながら育てたアスパラを早く食べたい。

石田さんは地域の7軒の農家が集まってつくった農業生産法人の常務取締役生産担当。社員に伺うと、第二世代つまり、創業者の息子さんたちの世代のリーダーで、二代目たちと新規参入の若者たちと一緒に地道な改革を続けているという。姿勢のいい日焼けした笑顔。低く響く良い声。控えめのコメントがいい。
石田さんと同じ30代の営業担当がいるそうだ。彼は大手スーパーマッケット数社や産直施設としっかり連携して、生産の7割がたを地元江別や隣の札幌の店に直接卸しているという。「歳も一緒で、子供のころからの友達が営業やってくれてて本当に助かるんです」という。そこには流通の都合に振り回される農家像はなかった。

 



この記事はhttp://nomadosha.jp/tokusyuに引用されました。