私には「家庭科の教師になる」という目標があります。教師になって、たくさんの学びを与えてくれたこの地域に貢献したいと思っています。私は、「貢献」とは、人に「きっかけ」を与えることだと考えています。「きっかけ」とは、結果を生む「可能性」です。私は、地域活動を通じて、様々な人から「きっかけ」をもらい、成長することができました。私が与えられたように、今度は私が与える側になって、この地域を担う子供たちが成長する手助けをしたいと思っています。

 こうした目標を持つきっかけになった私の主な地域活動を二つご紹介します。

 一つ目は、高校生チャレンジグルメコンテストです。

 これは、高校生が各地の特色ある「食」を学び、地元の生産者や料理人と連携してオリジナルのメニューを考案、調理・販売までを行い、これらの審査項目を総合的に競うコンテストです。

 私たち大通高校は、「札幌伝統野菜」と呼ばれる、札幌市内で栽培された野菜を使用したメニューを考えました。そのために、札幌伝統野菜を守るために活動されている方にお話をうかがったり、コープさっぽろルーシー店に許可をいただいて、その店頭で、札幌伝統野菜に対する札幌市民の認知度調査を行いました。その結果をもとに、オリジナルのエッグコロッケを考案しました。その結果、大通高校はグランプリと来場者投票一位を獲得しました。

 二つ目は、食農体験プログラム「アニマドーレ」です。これは、北海道の生産者と消費者をつなぐ架け橋となる人材を育てるためのプログラムです。

 参加生徒は、自らの手で作物を栽培し、採れた野菜で商品開発を行ったり、商品を販売するための広報活動を行ったりして、日常生活では触れることのない生産と消費の間にあるプロセスを体験します。

 私は、オリジナル商品の開発のために商品開発について学び、仲間と協力して、オリジナルのトマトピクルスを開発しました。また、生産者の生き方や農業に対する思いを知るため、札幌市近郊の農家さんを訪問する農家バスツアーにも参加しました。

 時に仲間をサポートする立場として、時にまとめ役として、また、与えられる側にも与える側にもなりながら、これらの活動を通して、私は多くのことを学びました。

 まず、地域活動の意義を実感しました。

 アニマドーレの農家バスツアーで訪問した押谷農園の押谷さんは、一言一言に力を持った不思議な人でした。押谷さんのこの言葉を聞いて、これまで苦手で避けてきた英語を、自ら勉強しようと思いました。私は日本語しか話せません。だから、何か知識を得ようとする時、当然のように日本語で得られる日本の情報を探します。しかし、世界へ目を向けることができれば、より多様な情報を得られるはずです。グローバル化によって海外との境界がなくなりつつあるにも関わらず、それができないのは、きっと、言語を日本語しか持たないからです。この時、私は初めて、自らの意思で英語を学びたいと思いました。

 ジョージ農園の江崎さんのこの言葉は、初めて、「仕事」を「生活」の一部として考えるきっかけになりました。今までは、仕事と生活を切り離し、いかに仕事の負担を減らすか、いかに生活を豊かにするかとばかり考えていました。しかし、江崎さんの話をきっかけに、仕事を生活の一部として捉え、仕事が豊かになれば自然と生活も豊かになっていくのではないかと考えました。「仕事を楽しむ必要はない」と考えていた私が、初めて「仕事を楽しむ」ことを自分の中で肯定できたのです。

 押谷さんのたった一言で、自ら「英語を学びたい」と思うようになりました。江崎さんの言葉で、「仕事」についての価値観が変わりました。きっと、お二人と出会わなければこのような変化は起こらなかったと思います。

 これ以外にも、様々な活動を通して沢山の人と出会い、その度に刺激をもらいました。人との出会いだけでなく、アニマドーレでの農業体験やチャレンジグルメコンテストでのメニュー開発など、日常生活や学校生活にはない体験をし、知識や、新たな興味の種を得ることができました。肌で感じられる出会いと、模倣ではない本物の体験から、自分の価値観さえ変化させてしまうような、そこでしか得られない深い学びを得ることが出来たのです。ここに、私は地域活動の意義を感じました。

 少し前まで、私には、生まれ育ったこの地域への執着や思い入れといったものがありませんでした。私にとって「地元」「札幌市」は、単に生まれ育った「場所」でしかなかったのです。しかし、今は、この札幌の地で働きたい、この地域に貢献したいと思っています。この地での体験と、ここにいた人たちとの出会いがなければ得られなかったものが沢山あります。そのような体験は、この地域への強い思い入れとなり、そして、私が生まれ育った土地は素晴らしいところなのだという自信になりました。素晴らしい土地は日本中・世界中にあると思いますが、私がその素晴らしさを、自信を持って語ることができるのは、この札幌だけです。それからは、自然とこの地域に貢献したいと思うようになりました。

 「貢献」という言葉の意味を調べると、「力を尽くして人の役に立つこと」と解説されます。しかし、私は、「他者にきっかけを与えること」こそが「貢献」であると考えました。

 チャレンジグルメコンテストの事前学習で、札幌市民の札幌伝統野菜に対する認知度調査を行いました。その結果を、札幌伝統野菜について教えてくれた方に報告しました。すると、その方が予想していたよりも認知度が低かったようで、その結果に驚き、そして、「もっと広く知ってもらえるように頑張ります」と仰ってくれました。私たちがアンケートを実施しその結果を報告したことで、課題に気付き、行動を起こす「きっかけ」を感じてもらうことができたのだと思います。

 このことに気が付いた時、人に「伝える」ことの重要性を強く感じました。私はこれまで、実践と学びを繰り返してきました。それは私にとっての財産です。そして、その過程や結果を表現し人に伝えることで、人に「きっかけ」を与え、それが行動・結果を生み、やがてその人の財産になるのだと思います。私は、行動や思考を助けることより、それを生む「きっかけ」を与えることに、より魅力と意義を感じました。

 大通高校にはミツバチプロジェクトという活動があります。学校の敷地の中で養蜂を行い、養蜂に関連する授業を様々な科目に取り入れています。私は、このプロジェクトは、生徒が興味を持つ「きっかけ」が様々な場面に用意されているという点において優れていると感じました。どのような経緯で興味を持つかは人それぞれで、そこから得られる結果や学びも人それぞれです。大通高校はそれをよく理解し、学校の内外いたるところに学びの場を用意しています。学校があったからこそ、私は地域との結びつきを得られ、学校の中だけでは得られない体験をし、学ぶことができたのです。そして、意欲を持って学ぶうち、学ぶ楽しさに気が付きました。今では、自分でも驚くほど、知りたいことが次から次へと湧き上がってきます。そして、学校へ行けば、それらを学べることを知っています。だから私は、毎日、自らの意思で学校へ行くのです。私は、初めて、学校へ通うことに自分なりの意味を持つことが出来ました。

 そこで、私にはある目標が生まれました。教師になって、地域と生徒をつなぐ教育環境をつくり、私を成長させてくれた「地域」と、今後地域を担う子供たちの成長に貢献することです。子供たちには、私が地域活動から多くの学びや変化を得たように、広いフィールドで興味や学びを見つけ、「学ぶ」ことや「学校へ通うこと」に自分なりの意味を持ってほしいと思います。意味のないことに取り組むのは退屈です。しかし、一つ一つの行動や活動に意味を見出すことができれば、そこから意欲や主体性が生まれ、変化や成長につながるはずです。そうした子供たちの成長は、きっと地域社会に影響を与えてくれると思います。それが「地域貢献」になるでしょう。そんな働きができる教師になりたいと思います。

 それを実現するためには、学ぶべきことがまだ山ほどあります。地域をフィールドとして教育をするのであれば、この地域をもっと知る必要があります。私自身、新たな興味や学びを見つけもっと成長したいとも思っています。そのために、大学でも「地域活動」に取り組んでいきたいです。