電車で「囲碁クエスト」をしている人がいた!

その事実は私をひどく驚かせた。

 

ある日の学校帰り。私は通学にJRを利用しているのだが、今日も列に並び、流されるようにして電車に乗り込んだ。

ちょうどよさそうな席を見つけて座る。

発車を待ちながらぼうっと外を眺めていると、不謹慎ではあるが、隣に座った人のスマートフォンの画面が見えてしまった。

 

「あっ。」

 

見慣れたディスプレイ。

思わず、息をのんだ。

無数にいる人のなかで、同じアプリを使っている人が偶然にも隣に居合わせたことに、少しばかり感激してしまったのだ。

 

「囲碁クエスト」というアプリがある。

囲碁の好きな方によって作られた、リアルタイムでオンライン対局ができるスグレモノだ。

ちなみに、人がいないときはロボットと対戦することもできる。囲碁が好きでデジタル機器に疎くない方なら、大抵は知っていることだろう。

 

全国から接続できるなかで、2018年4月現在の普段の接続数を考えても、アプリの人口は決して多いわけではない。

だからこそ驚いた。同じ札幌市で、囲碁クエストのユーザーに出会えるなんて。

 

昨年は猛烈な将棋ブームが巻き起こったのに対して、囲碁好きとしていちばん人気の出てほしい囲碁には、この頃流行りというものがてんで存在しない。

私の知らないところで起こっている可能性はもちろんあるが、囲碁好きに知れ渡っていないという時点で、明らかに大ブームとはいえないだろう。

 

そもそも将棋と囲碁は「盤を使ったゲーム」という点以外は全く別ものなのだから、比較するほうが間違っているのかもしれない。

けれど私の所属する部活動が「囲碁将棋部」というくくりにされてしまっている以上、お互いの関係性を考えることは避けて通れないのである。

 

……そう、私が囲碁を打つようになったのは何を隠そう、「囲碁将棋部」という部活に入部したからだ(ここだけの話、初めは将棋を指そうと思って入部したのだが、囲碁に引き込まれてしまったのは秘密である)。

とはいっても、普段は隣で対局をしているだけで、互いに争うようなことはない。

ただ、学校祭などで人を呼び込む機会を得たとき、その集客力の差や「将棋ならできるんだけどね」という言葉に悲しくなることがあるのだ。

 

残念なことに、高校囲碁界でも人数の減少は著しい。

縁あって全国大会に参加する機会をいただいたのだが、特に女子の人数が不足しているのが現状だ。

北海道を含め、47ある都道府県それぞれの代表に数人ずつを抜擢するとなると、段位者が足りないために級位者が出場する例も少なくない。

高校に入ってから囲碁を始めた私が、全国大会に参加できたというのがまさにその一例である。

ちなみに男子の人口も決して多いとは言えず、北海道の大会でも、会議室のような部屋がようやくいっぱいになる程度だった。

 

高校囲碁だけではどうしても視野が狭い。そう思い、中央区の碁会所を訪れてみた。

休日だったことも幸いしてか、対戦相手には困らなかった。この様子なら実力差さえ気にしなければ、平日でも打ち続けることができるだろう。

女性もちらほらと見かけたし、とても活発に対局が行われていて、初訪問の際にはこんなにも素晴らしい場所があったのかと感動したものだ。

 

けれど、私は気づいてしまった。……段所有者ばかりで、圧倒的に級位者が少ないではないか。

二桁の級に至っては一人も見かけなかった。

この事実が意味しているのはつまり「新しく始める人がいない」ということである。

 

ふと冷静になってみた。

碁会所の人数はざっとみて、100人に満たない程度だろうか。

札幌の人口を考えてみよう。……2018年4月現在で、約200万人。

 

これだけの人がいる街で、しかも中心部で、そして休日であってもこの人数なのだ。

……やはり何か、囲碁の人口不足を補うための決定打となるものが必要なのだと思う。

 

ご存じのとおり、札幌市には「白石区」という区が存在する。

どうやら宮城県・白石市からの移民が作った街であるために、この名前がついたそうだ。

 

白石……白い石……何か思い浮かばないだろうか?

そう、囲碁のあの「白石」だ。

 

適当なことを言って!とは思わなかっただろうか。ところがどっこい、実はそれほどはったりでもないのである。

 

高校生の部活動の祭典「総合文化祭」の囲碁部門大会は、白石市にある「ホワイトキューブ」という場所で開催された。

白石市のもともとの由来は、「白石氏」という豪族が支配していたことによるという。

残念ながら、皆さんが期待するような「囲碁の白い石が由来だよ!」とうきれいな答えはではない(強いて言うならば、伊達正宗のいた街でもあるというから、きっと昔から囲碁が存在していたのだろう)。

けれど会場に選ばれた理由は「白石市」という名前なのだ、というから驚きである。

どうやら、せっかく名前が囲碁っぽいということで、囲碁好きの方々が青森の「黒石市」とセットにして、囲碁にゆかりの深い街としたらしい。

 

この白石市から生まれた、「白石」の名を持つ区で、なにか囲碁を盛り上げる活動があれば、きっと……。

もうイベントがあるのだろうか。もしあるのだとしたら、もっとたくさん広報してほしい。もし過去に行われていたのなら、また開催してほしいと切に思う。

 

白石の近くでいえば、かつては新さっぽろにあるサンピアザというショッピングモールで「囲碁祭り」というイベントがちらほらと開催されていたそうだ。

残念ながら、現在では行われている気配はない。活躍されている先生を呼んだり、初心者向けの講座も行ったりと、とても素晴らしいイベントだったようなのだが……

主催する方も大変なのだろうし、これだけ需要が減ってしまっては無理もないだろう。

 

けれど、こんなに面白いゲームなのだ。たくさんの方との交流の機会にもなるし、ルールさえわかってしまえば実に簡単である。

脳の回転も鍛えられるし、戦略を練る過程がとても参考になると、あらゆる実業家の方にも好まれている。

どんなにおいしいケーキでも、一度食べてみなければわからないもの。まだみんな、囲碁の良さを知らないだけに違いない。

 

必ず、どこかにいる。囲碁を好きになってくれる人は、絶対に。

 

日本で、そして札幌でもっと囲碁が栄えてほしいと願うばかりだ。