札幌再発見 地元を見つめて その2

北海道札幌啓北商業高等学校商業クラブ

 

 

 

4.札幌軟石とは ~ 歴史や利用法

 

 今回テーマとした札幌軟石について、最初に私たちは、文献から歴史や利用法について調査してみました。

 

(1)札幌軟石の歴史

 4万年前、支笏湖ができたときの火山活動で流れ出た火砕流が降り積もり、何万年という長い年月をかけて強い圧力で押し付けられて固まってできたものが札幌軟石です。淡く優しい色をしていて、柔らかく肌触りのよい感触、弾力性があり保湿性にも優れています。

 札幌軟石の仲間たちには、流紋岩質凝灰岩と呼ばれ石英が肉眼で見えるのが特徴の美瑛軟石・札幌軟石と同じものだが小樽でとれた小樽軟石・陸地にしか堆積しないはずの岩石だが現在は海の深いところにある登別軟石などがあります。

明治4年ごろ黒田清隆開拓使長官が、北海道開拓の顧問としてアメリカからケプロンを招いたが、このとき来日したアメリカのワーフェルド・アンチッセル技師が石山一帯を調査して石山軟石が見つかりました。そして採石され始めたのは明治7年ごろ。

 軟石は、馬で引いて運んでいましたが、そのうち馬車鉄道ができ馬車鉄道で運ぶようになりました。また、石材としては軽く、加工しやすかったため、切り出された石材は開拓使に納められ、庁舎・札幌本府の洋風の建物の建築材料に使われました。当時は火災が多かったため、開拓使は防火に強い軟石を採石して利用しようと考えたそうです。今は、小樽運河の石造倉庫群や旧札幌控訴院は札幌市資料館として、旧札幌電話交換局は明治村(愛知県犬山市)に移築されて国の重要文化財として残っているものなどがあります。                     

 しかし当時のような無垢積み(ブロック状の札幌軟石をそのまま積み上げていく建て方)は、耐震の問題から、現在建築許可がおりなくなりました。そのため、この建物を一度壊してしまったら二度と同じものを建てることができないので貴重な建物です。最盛期の明治10年~14年ごろには石山地区には約400人の石工がいて、大変にぎわっていたそうですが、昭和25年に建築基準法が制定されたことや幅広い用途があり低価格なコンクリートの普及によって次第に衰退していきました。

現在では、無垢積みでできる最大の建物は、建築基準法よると4m×4m×4mまでと決められているそうです。そうなると物置くらいの建物しか作れません。

 そのため、1階部分だけ軟石を使った家が作られていたり、外壁に軟石のプレートを貼ったりして、使うことが多くなっています。しかし、まだまだここ石山では、札幌軟石の建物を見ることができます。

 

(2)実際に見に行く - 採掘場の見学

 次に私たちは、辻石材工業株式会社様の小原さんの計らいで、実際に採掘場の見学をすることができました。そこでは、特に札幌唯一の露天掘りで掘られている札幌軟石にふれ、文献には載っていないような性能と情報をあつめることを目的としました。

 採掘所に到着すると、小原さんのほか、採掘加工の責任者である村井部長さんが迎えてくれました。最初に説明していただいたのが、どのように軟石を採るかでした。この辺の地層は写真のようになっており、それぞれに用途が決まっていました。

まず私たちを出迎えてくれたのが、軟石を切り出した後に出る端材の山です。軟石を切り出しても60%は規格外になったり、端材になったりしまうそうです。

 

端材は500 円程度で一般の人にも販売しているそうです。ガーデニングの材料などに利用できるそうです。

ちなみにここにある端材は、最終的には産業廃棄物となり、処理するのに約200万円もかかるそうです。

 村井部長さんが、実際に切り出すところを見せてくださいました。

人工ダイヤモンドがついた刃を使った専用の機械を利用し、切り出しています。

ものすごい音がするのかと思っていましたが、思っていたより大きな音はせずゆっくり切れていきました。まるで、畑仕事の際に使う、トラクターを使っているような感じでした。

 石材は、90cm×30cm×30cmで切り出されます。切り出された石材は1万円で売られています。

自然にひびが入ってしまっているものや取り出すときにひびが入ってしまうものもあり、そのようなものはすべて規格外となってしまいます。

 

 

実際に切り出す作業を体験させていただきました。二人でやってもびくともせず、とても重いものでした。切り出した瞬間はゴキっと特別の感覚がありました。普段、これを何個も取り出すのはものすごく大変な作業だと思いました。

 4万年前に堆積した火山灰からできた軟石が長い時間を経て、再び太陽のもとに出る瞬間を体験することができました。

 小原さんからは、「ここの採石場はあと100年しか石が採掘できません。石の特性上、多くの規格外が出てしまいます。是非資源の有効活用のためにも、何かできないか私も考えるのです。」「今働いている職人さんも高齢化が進み、次の世代の職人がなかなか育たない現状もあります。」

 私たちは、この現状を打破するために何かできないか、考えることも必要だなと改めて実感しました。

 

 

 

  次に加工場を見せていただきました。切り出した石を製品にするための加工をする場所です。

最初に見たところは、石の最終加工をするところでした。ちょうど、石の角を削っていました。機械を使わず手作業でやっていました。間違うことができない慎重な作業が要求されそうです。とても集中力がいる作業だなと思いました。

 次に見学させていただいた箇所は石に模様を入れている作業でした。この作業は一枚一枚手作業で、専用の工具で細かい模様を入れていきます。

 実際に体験させていただきましたが、斜めになってしまいました。すごく細かくてまっすぐな線を作っていくのはとても難しかったです。でも、職人さんからうまいと褒めてもらえました。

 次に見たのは、切り出した軟石を大きくカットする機械です。水の出る機械で、石を切っていました。こちらは、先ほどの切り出す機械とは違い、大きな音でした。摩擦で出る熱を下げるために水を利用しているそうです。この機械も刃が丸くなったら切れなくなるので買い替えなければなりません。

 実際に採掘場を見学させていただき、多くの発見をすることができました。

小原さんがおっしゃっていた通り、あと100年しかとれない貴重な石ですが、現在は常盤にある採掘場でしか採石されていません。実際に切り出した石は、およそ40%しか使えるものがなく、60%が規格外になります。この宝の山を私たちの手で何とかしたい。そんな気持ちにさせられながら採掘場を後にしました。

 

5.札幌軟石の性能実験

 次に私たちは、インタビュー調査や文献、インターネットの資料から知ることができた札幌軟石の性能について実際に実験を通して検証することにしました。

今回は、理科の先生にも協力をお願いして、札幌軟石の一番の特徴である保温性が高いことと、吸水性に優れているという特徴について、実験してみました。

 

(1)保温性実験

 札幌軟石はピザなどを焼く石窯にも利用されています。

 ごく一般的なレンガなどで作られた石窯は窯の中だけでなく、外面も熱く触れると火傷をしてしまうほどですが、軟石で作られた窯は保温性が高く、内部の温度がおよそ700℃でも外面は全く熱くありません。

 そこで、私たちは「保温性は条件が全く逆の場合にも働くのか」と考え、校舎の外に落ちていた普通の石と札幌軟石の2種類を使い、次のような対照実験をしました。

<実験の概要>

 約80℃のお湯をそれぞれ500mlずつビーカーに注ぎ、そこに普通の石と札幌軟石をそれぞれのビーカーに同時に入れます。40分間、5分毎にお湯の温度を測り、札幌軟石は普通の石とは違い、お湯の温度をどれだけ下げずに、保つことができるのかという実験をしてみることにしました。

 

<実験のデータと結果>

 下表のように、今回の実験では普通の石と札幌軟石の温度に大きな違いは見られませんでした。

私たちの実験の方法や手順が間違っていたのか、私たちが予想していた「札幌軟石の方がお湯の温度を下げずに保つ」という求めていた結果は得られませんでした。

 理科の先生にお聞きしたところ、ビーカーから蒸発する熱やその他の条件であまり差が出なかったのではというお話もいただきました。今後、さらに実験法を考え、一目で札幌軟石本来の保温性という性質が分かるような実験をしたいと思っています。 

時間

普通の石

(水の温度)

札幌軟石

(水の温度)

0分

80℃

80℃

5分

73℃

73℃

10分

67℃

67℃

15分

63℃

62℃

20分

59℃

59℃

25分

57℃

56℃

30分

54℃

53℃

35分

52℃

52℃

40分

50℃

50℃

 

   

(2)吸水性実験

 次に札幌軟石の吸水性について実験をしました。 

札幌軟石は吸水性が高いことから、アロマオイルを石にしみこませた、アロマストーンなどに利用できると聞きました。

そこで、その性能を確かめるために、私たちは普通の石と札幌軟石では1時間水につけておくと、どれくらい吸水性に違いがでるのかという対照実験をしました。

 実験の概要>

 水道水をそれぞれ500mlずつビーカーに注ぎ、普通の石と札幌軟石を同時にビーカーに入れ、それぞれの石は1時間でそれぞれ何ml吸水するのかという実験をしました。

<実験のデータと結果>

 実験を開始した直後から一目で変化がわかりました。普通の石は特に何も変わった様子は見受けられませんでしたが、札幌軟石からは多くの泡が現れて、まるで炭酸飲料をコップに注いだような感じが見られました。

 今回のこの実験は期待のできる結果が得られるような気がしてきました。

 

 結果は、下の表のとおり、普通の石では実験前と実験後の質量では、約5.1gというあまり変化のない結果でしたが、札幌軟石では約25.2gと、普通の石の約5倍もの吸水性があるということが言えます。

ビーカーに残った水の量も目で見てわかるぐらい減っていました。

以上のことからこの実験では札幌軟石の吸水性を証明することができました。

 

 

 

  

普通の石

札幌軟石

 

 

質量(実験前)

約120.0g

約120.0g

約25.2g増えた

質量(実験後)

約125.1g

約145.2g

ビーカーの水

(実験後)

約495ml

(ほぼ変化なし)

約475ml

 

 

<性能実験を通じて>

 今回、この性能実験を通じて、実際に聞いた内容を自分たちで確認することの重要さを知ることができました。残念なことに保温性の実験はうまくいきませんでしたが、吸水性の実験は大成功でした。さらに、ほかの性能についても、実験で確かめる必要があると感じました。

 この結果をもとに、札幌軟石の商品化に向けて、さらに話し合いを進めていこうと決心しました。

 

つづく

札幌発見 地元を見つめて その3