甘くておいしいですよ!
こう言われて、あなたはハチミツを買いたいと思いますか?
☆「おいしいですよ!」といっただけでは伝わらない
「甘くておいしいですよ!」
「おひとついかがですか!」
何日も前から心待ちにしていた、サッポロオータムフェストの販売実習。
私は懸命に蜜を集めるミツバチの姿を思い浮かべながら、精一杯声を張り上げた。
昔から生き物が好きで、校庭のアリたちが巣に餌を運んでいく様子を、いつまでも眺めているような子どもだった。
本校の屋上でミツバチを育てていると知ったときも真っ先に駆け付けたし、実習に参加して巣の中を見せてもらったこともあるくらいだ。
だからこそ、そんなミツバチたちが集めたハチミツに、とても愛着があった。
何としてでも、お店の前を通り過ぎる人に、そのハチミツの魅力を理解してもらいたかった。
しかし、いくら声を張り上げてみても、道を行く人は足を止めてくれない。
どうしてだろう。こんなに優しい味がするハチミツなのに。
食べたらきっと好きになってもらえるのに。
自分なりに考えてみた。
お店のレイアウトが悪かったのだろうか。
いや、きっとそんなことはない。
木製の小棚に並べられたハチミツの瓶は光を浴びて、美味しそうに輝いている。
ブースを前にしたお客さんが受ける印象は決して悪くないだろう。
では、足を止めてもらうまでのアピールはどうだろうか。
どんなに良いハチミツだと自分が知っていても、ただ闇雲に「おいしいですよ!」といっただけでは、その魅力は伝わらないのではないか。
聞いている人からすれば、具体的に何がおいしいのかわからず、意味を持たない言葉として聞き流されてしまっているのではないか。
☆なるほどな、と思った…。
お客さんの立場からすれば、商品にどんな独自性があるのかわからない限り、まず興味を持つことはできないだろう。
小売店の棚に陳列されているハチミツを購入するときがわかりやすい例かもしれない。
どこの国で生産されたのか、何かおいしさの秘密があるのか、そういった要素を見比べて購入するだろう。
つまり、他のハチミツを差し置いて選んでもらいたいのなら、具体的に何が魅力なのか、自分が「推せる」ポイントはどこなのかを伝えていくべきなのではないか。
そのことに気付いた私は、アピールを工夫してみることにした。
「高校の屋上で大切に養蜂しました!」
「純度100%の天然はちみつです」
「他にない珍しい種類のものもありますよ」
さっそくハチミツの「推せる」ポイントを意識してアピールしてみた。
けれど、それでもお客さんは歩みを止めてくれない。
何を売っているのか、という様子でちらりと覗くことはあっても、すぐにその場を離れて行ってしまう。
なぜだろう。ハチミツが嫌いなのだろうか。
私は思わず涙を浮かべそうになってしまった。
そのときだった。
「こんにちは。ホームページで見てとても気になっていたので、買いに来ました!」
若い女性が、にこやかに微笑みながらブースに歩み寄り、ハチミツを手に取ってくれたのだ。
なるほどな、と思った。
オータムフェストの中でも賑わっている会場を考えてみればよくわかる。テレビで大々的に取り上げられ、どんな背景があるかを紹介され、多くのお客さんは、どこのお店がおすすめかを事前に知ってからやってくる。
宣伝を見ていないとしても、誰かからオータムの評判を聞いた人もいるだろう。
そこには必ず、広報や口コミといった要素が隠れているのだ。
☆発信していくことの価値はとても大きい
ホームページや広告などの情報があることで、初めてお客さんはそこに商品があると気づくことができる。
来場者はハチミツを欲しがっている人ばかりではないだろう。オータムフェストという、食を楽しむイベントならば尚更である。
そこで、お店の認知度を高めることが必要になってくる。
事前にハチミツを売るお店があると発信することで、私たちのブースのある会場に、ハチミツを求めてくれる人が集まりやすくなるのだ。
逆に、どんなにはちみつのお店を知りたいと思っている人がいても、発信されていなければ知る手立てがない。
発信していくことの価値はとても大きいのだなと痛感すると共に、商品を広めていくことの難しさを感じた。
☆「チャレンジ」することの大切さ
絶品のお菓子屋さんでも、何もない空き地にぽーんとお店を放り出したところで、まず売れない。
お客さんの口コミやホームページ、TVなどのメディアを活用して、様々な努力の積み重ねでお店を大きくしていく。きっとそれがマーケティングであり、商売なのだ。
もし私がビジネスをすることになったとき、関わりをもったとき、きっとこの経験が何かに活きてくるのだろう。
私自身、いろいろ考えながらものを見ることで、普通に生活していてはまず気づかないようなことにも気づくことができた。
貴重な体験ができてよかったと思ったし、この「チャレンジオータム」を通して、「チャレンジ」することの大切さを改めて感じた。
Written by 梶 麗奈
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