続 氷点/三浦綾子 について知っていることをぜひ教えてください

続 氷点

 

実の父が殺人者ではなかったと知っても、一度凍った心は大量の睡眠薬を飲み昏睡に入るまえと変わるものではなく、夫が出征していた隙に不義の子として産み落とされたという新たなる出生の秘密を知ることで更に乱されることとなる。生まれて来てはいけなかったと自分を責める。その原因を作った実の母を許すことが出来ない。そんな陽子に、人生に一つの翳りさえ感じさせぬ順子という友人が出来る。罪を背負う陽子には、天真爛漫な順子が悩みなどを持たない太陽のような存在に映っただろう。しかし、その順子こそが生まれた瞬間から氷の中で呼吸をしてきた人であったのだ。順子の心に存在する分厚い氷を溶かした光は、人を許すという教えであった。

 

 罪のない人間などはいない

自分の心に問いかけて全てが善良だと言い切れる人間などはいない。他人から見たところ、打ち所のない人格者であろうとそれは同じなのだ。

何も知らずにいると思われていた夏枝の父もまたその一人である。内科の神様とまで言われ、大勢の人々を助け、慕われてきた人でさえも罪を背負う。母を早くに亡くした娘が不憫で甘やかせて育ててしまったために、自殺に追い込むほど夏枝が陽子に深い傷を負わせてしまったと悔いている。

 

「自分一人ぐらいと思ってはいけない。その一人ぐらいと思っている自分に、沢山の人がかかわっている。ある一人がでたらめに生きると、その人間の一生に出会うすべての人が不快になったり、迷惑をこうむったりするのだ。そして不幸になるのだ。…..そして真の意味で自分を大事にすることを知らない者は、他の人をも大事にすることを知らない。『一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである』ジュラール・シャンドリという人のいったこの言葉が、なぜかしきりに頭に浮かぶと、おじいさんはおっしゃるのです。」(続 氷点 陽子から父への手紙より抜粋)

 

ゆるされる以外にどうしようもないもの

「陽子は、小学校一年の時、夏枝に首を絞められたことがあった。中学の卒業式には、用意した答辞を白紙にすりかえられた。そのことを、陽子は決して人には告げなかった。ただひたすら、石にかじりついてもひねくれまい、母のような女になるまいと思って、生きてきた。が、それは常に、自分を母より正しいとすることであった。相手より自分が正しいとする時、果たして人間はあたたかな思いやりを持てるものだろうか。自分を正しいと思うことによって、いつしか人を見下げる冷たさが、心の中に育ってきたのではないか……。罪は、たとえ人間の命をもってしても、根本的につぐない得ないものだからでもあろうか。確かに罪とは、ゆるされる以外にどうしようもないものなのかもしれない。」(続 氷点より抜粋)

 

自分の中に存在する

氷りついた心を溶かすのは、最終的には自分自身であろう。人は変われる生き物だ。しかし、自分自身で気付き強く望まなければ変われない。変わるという事を受け入れるのは至難の業であるが、それが出来るのもまた人間なのかもしれない。三浦綾子氏は、続 氷点の中の全ての登場人物に、人間ならば誰しもが持つ可能性のある罪を持たせ、そのいづれも自分の中に存在するという事に気づかせてくれたように思う。一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである』小さな存在である自分へこの言葉を残したい。

 

「2017/05/25 菅原由美」