人体と鳥の組合わせというモチーフが、創作意欲を刺激

 

少女が暴れる鶏を抱いていた

 「鳥を抱く女」は、本郷が札幌円山あたりに住んでいた小学4、5年生の頃、女の子があばれる鶏を抱いている姿に出会った記憶をもとに制作した。女の子の野性味のある表情と大きな眼が、いつまでも忘れられず50年後に彫刻にしてみたという。同時に、裸婦像と違った展開である人体と鳥の組合せという、彫刻の造形としての興味が、創作意欲を刺激し連作した。

 

写実から鳥と少女の一体感へ作品が進化してゆく

 1962年には7点の作品を制作している。本郷自身は、1975年の美術評論家匠秀夫氏との対談で14点制作したと語っている。しかし、現在確認できるのは、野外彫刻を含め12点である。遺族の方のお話によると、1972年アトリエ改修時に、自ら石膏原型を約100点壊したそうである。そのとき「鳥を抱く女」も含まれていたと思われる。

 残された作品を見ると、最初の頃は少年時代の記憶を忠実に再現しようと、少女の手から逃れようとするように鶏の首は前に突き出し、生命感にあふれている。少女は、暴れる鶏をシッカリと胸に抱きしめ、力強く野性味に溢れている。その後、鶏のとさかを省略し、一見鶏とは思えない形態となる。少女と鳥の関係は、親密になり、少女の胸の中で鳥は甘えるように体を持たせかけ一体感を強調した表現に変化した。

 

命の躍動、共鳴、そして、死を記す

 全体としては、生命感に溢れた作品であるが、「鳥の碑」は、他の作品と趣を異にしている。材質にコンクリートを選び、少女と鳥の形は、無駄な部分を省略し形を単純化した。表面の処理も全体に亀裂を入れ、一面では死のイメージさえ感じるような表現になっている。

「鳥の碑」 1963年 コンクリート 高さ187cm 

札幌彫刻美術館記念館のエントランス

 

 本郷新記念札幌彫刻美術館は、ブロンズ像が1点、石膏原型12点(頭部だけの作品を含む)を収蔵している。いつでも見られる作品としては、当館記念館前の「鳥の碑」、記念館1階展示室の石膏原型「暁」(札幌芸術の森野外美術館に「鶏を抱く女」として野外設置)がある。そのほか、記念館向かいの宮の森緑地、宮の森連絡所前にも、別の「鳥を抱く女」の作品がある。本郷が、「鳥を抱く女」シリーズで一番気に入っている作品は、国際現代彫刻展にも出品した宮の森連絡所前の作品である。

(2004年7月30日 札幌彫刻美術館 学芸員 井上みどり)

 

宮の森緑地「鳥を抱く女‘朝‘」 1962年 ブロンズ 高さ183cm