「親父に感謝」
「親父に感謝」って「なんだこのメニューは」と思ったら、大将の父親が佐々隣、上流の吉井で米とお茶を作っていらっしゃると。「米とお茶だけは料理人にはどうしょうもないと習った」という。関西での修行時代に「米とお茶、そのものと水が良ければ決まる。料理人の技術の入る余地がない」と師匠に教わったということだった。「親父の作る米は吉井の山の天辺にある田んぼで寒いから美味いですよ」という。
これが、炊きたてじゃないと食べさせてくれない。「チャーハンはあるけど、白飯は終わり」という、うるさい料理人だ。炊きたてと言いながら、炊き上がりから一番うまい、一時間待たせる。
佐々川はその水量の割に、断層に沿い、狭い平野と干潟を作って海に注ぐ。古くから農家は干拓を施し平戸松浦を支えた。急峻な山に囲まれた、佐々、吉井、そして、最上流の世知原(せちばる)は本流、支流の水を使って美しい棚田を作ってきた。標高の高い棚田の水田の米は旨いと、地元の人が教えてくれる。
大将の父さんは、田んぼの裏にある小さな滝の上に家族のための茶畑も持っている。米も自分で食べる。孫にも食わせるので極力農薬を抑える。茶も家族で飲むので農薬を使わない。マムシから、ネズミから、カエルから、トンボから、田んぼは生き物だらけだ。
割に遠くから食べに来る
お客は、佐々町内の人はたくさんいるのだけど、佐世保から飲みに来る人が多い。隣で飲んでいらした紳士は江迎から飲みにいらしてタクシーで帰るという。「毎日のように来てしまいます。旨いから」と。この店と出会ったのは、魚屋。佐々の街の魚屋さんで、とても美味そうなサヨリを見て話をしていると「魚はみんな田平港で仕入れて持ってくる」という。田平の魚の旨さを教えてくれる父さんだった。彼に「佐々で料理の旨いところ教えてください」と頼んだら「ひとつやさん。あそこの仕入れはいいよ。だからきっと料理もいい」。父さんに素直に従って行ってみると、美女をしたがえて、思ったより若い男前の大将が出てきた。
散々飲み食いした後、ご飯を頼むと米のいい匂いしかしない。味噌汁も塩味のしっかりついて出汁の旨みが強く感じられるもの。白いご飯をモリモリ食べていたら「そんなに旨そうに食べるとやったら、新米のできたら送ります。今年は稲妻のあったとですから、米の旨か」という。
ものすごく嬉しかったけど「いや、佐々の米は佐々川の水で、君の炊いたのを食べる」と断った。
旬吟菜
壹つ家(ひとつや)
長崎県北松浦郡佐々町市場免2-3
0956-62-5670