「先生だって、統計の分析をされたり、論文書かれたりして、しょっちゅう朝になってるじゃないですか」
田中先生が「熊楠はすごいですね。なにかものを調べだすととことんなんですね」とおっしゃるので、笑いながらそんな返事をした。
「そっか、同じか。自分はそんなでもないと思っていたけど、そうですね」とお笑いになる。
「西尾さんだって、そうですよね。やりだすと止まらない病気」
「はい、みんな一緒かもしれないですね」
「ただ、本当に熊楠はすごいですね」
東京大学の田中秀幸先生と熊楠の書斎でくつろいだ。
和歌山大学のイベントで田辺の街を歩いた。大好きな場所、南方熊楠顕彰館を田辺市役所の西尾浩樹さんにご案内いただいた。海からの風、爽やかな空気。書斎には、熊楠の使った手前の脚を切って、斜めにした机。低いちゃぶ台での作業のときにつかったコードが長く、低くぶら下がった電球など、弟子たちの撮った写真から当時の風景を再現している。
和歌山大学の協力で、熊楠のお嬢さんが改装しながら使っていた建物を創建当時に近づける工事がおこなわれた。市民の作る顕彰会のメンバーとそれを後ろから支える田辺市、そして、専門家の努力が、この空間を作った。
田辺市民、田辺市役所の気骨。そして、南方熊楠の自然を見る眼。田辺の海風をまた、恩師でもある友人と、顕彰館を運営する西尾さんと過ごす田辺の午後。
熊楠が、集中して、外の明るさを利用しながら何かを書いている。
写真の熊楠のいる風景を観たあと、この書斎にたどり着いたとき、展示のセンスの良さにうなってしまった。田辺でもっとも落ち着く場所の一つになってしまった。
縁側のテーブルと椅子。気持ちのいい午後でした。
母屋の縁側に置かれたテーブルの写真を田中先生がアップしてくださった。