通称「熊野古道」として親しまれている「紀伊山地の霊場と参詣道」は、2004年にユネスコの世界文化遺産に登録された。

現在では多くの日本人や外国人が熊野の地を訪れるようになり、紀南地域の主要な観光地となっている熊野古道であるが、

その価値とはどこにあるのか?ユネスコの世界自然遺産に登録されて世界に認められるほどの文化的価値とはどのようなものだろうか?

それについて知っている人はそう多くはないのではないか。

田辺市熊野ツーリズムビューローがターゲットとする旅行者は「目的意識を持った個人旅行者」であるように、熊野の魅力を真に楽しみ、味わうことが熊野古

道観光における一番の醍醐味ではないかと思います。そして、熊野古道の価値を知るにはその歴史、すなわち熊野古道の成り立ちを知ることが一番の近道

だと思うのです。

成り立ち

熊野の土地や海や川や森が、熊野の聖地を生み出しました。


熊野の信仰は熊野の自然なしには成立しません。

岩を御神体とする神社滝を御神体とする神社島を御神体とする神社など。

熊野信仰の基層には自然崇拝があります。

明治末期の国の神社合祀政策で、そのような神社の多くは潰されてしまいましたが、それでもなおわずかながらも残されたものがあります。

熊野が広くその名を知られるようになるのは、院政期、上皇や女院による熊野御幸(くまのごこう)が行われるようになってからです。


 院政期、熊野御幸がほぼ年中行事と化すほど、上皇たちは熊野信仰に熱を入れました。このことにより熊野は浄土信仰の日本第一の大霊験所として地

位を確立したのです。

 武士の世となり、院政が衰え、熊野御幸は衰退していきましたが、熊野信仰は衰えませんでした。上皇たちは来なくなりましたが、今度は武士や庶民によ

る熊野詣が盛んになります。


 室町時代以降、「蟻の熊野詣」と、蟻が餌と巣の間を行列を作って行き来する様にたとえられるほどに、大勢の人々が列をなして熊野を詣でるようになった

のです。

 この熊野信仰の隆盛には、一遍上人(1239~89)を開祖とする時衆(じしゅう。のちに時宗)という浄土教系の鎌倉新仏教の念仏聖たちの働きがありま

た。

 時衆の念仏聖たちは熊野を特別な聖地と考え、それまで皇族や貴族などの上流階級のものであった熊野信仰を庶民にまで広めていったのです。

 このように浄土信仰の日本第一の大霊験所として栄えた熊野は、やがて神仏の権威の衰退や浄土信仰の衰退とともに衰えていったのでした。

                                                 (「み熊野ネット」より引用)

 

 

和歌山県、奈良県、三重県にまたがる「紀伊山地の霊場と参詣道(きいさんちのれいじょうとさんけいみち)」、自然崇拝に根ざした日本古来の神道と百済よ

り伝来した仏教が結びついた神仏習合思想をよくあらわしていること、神社や寺院などの建造物が自然環境と一体となって文化的景観を構成していることな

どが評価され、2004年、文化遺産に登録されました。 起源や信仰を異にする「吉野・大峯」、「熊野三山」、「高野山」の三つの「山岳霊場」とそこに至る「参

詣道」が相互に関連して発展を遂げ、日本の宗教・文化の発展と交流に大きな影響を及ぼしたということも大きな決め手の一つとも言えるでしょう。

・ ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すも

の。 

・ 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。 


・ 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

 
・顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と、直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と

組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。 

概要
紀伊山地の文化的景観を形成する記念碑と遺跡は神道と仏教のたぐいまれな融合であり、東アジアにおける宗教文化の交流と発展を示しました。そして紀伊

山地の神社と仏教寺院は、それらに関連する宗教儀式とともに、1000年以上にわたる日本の宗教文化の発展証拠なのです。そして、それらは日本の紀伊山

地以外の寺院・神社建築に重要な影響を与えました。同時に、紀伊山地の遺跡と森林景観は、過去1200年以上にわたる聖山の持続的で並外れて記録に残さ

れている伝統を反映しつづけています。

つまり、千年余にわたる日本の宗教文化の発展に貢献して、神道と仏教のたぐいまれな融合や、東アジアの宗教文化の交流と発展を示していることから世界

遺産に登録されたということなのです。

(世界遺産.comより引用)