半日間の富里滞在中、私の印象に強く残ったのは、「富里のひと」だった。富里には美しい田園風景もあるし、品格漂う岩崎別邸もあるし、スイカやにんじんなどの名産品もある。でも、それ以上に魅力的なのは、そういった富里の魅力を伝えていこうとする、謙虚だけれど愛郷心の強い、富里のひとびとだ。
岩崎別邸の復元活動の立役者である富里市役所の林田さんは、別邸復元にかける思いを静かに、けれど熱く語ってくださった。岩崎別邸の地面には林田さんたちが切り倒した竹の切り株が散在しており、その数を見るだけでも相当な労力を費やしたことが容易に想像できる。庭を回りながら、林田さんは荒れ果てた別邸の写真を見せてくださった。そのビフォーアフターはすさまじかった。別邸の周囲の庭には、林田さんを初めとする活動従事者たちの苦労と熱意が現れていた。
富里小学校で別邸や岩崎久彌について教えている松岡先生は、故郷を知る教育を始めたきっかけや現状について、丁寧に教えてくださった。松岡先生が見せてくださった児童の学習ノートには、岩崎久彌や別邸に関する学習の成果がびっしりと書き込まれていた。先生曰く、クラス内でも優秀な生徒のものを持ってきた、とのことだったが、そのような生徒たちの探求心を引き出した先生の情熱や指導力に感心してしまった。
富里市役所の池田さんは、飄々としていて親しみやすい方だった。ヒアリング時に、コミュニティバスの運用方式や今後の交通整備について熱く語っていらしたのが印象的だった。同じく市役所の三浦さんは、寡黙だけれどLocalwikiと市の発展を人一倍願っている、そしてそのために動いている、熱い方。池田さんも三浦さんも、私たちのどんな質問に対しても真剣に、時にユーモアを交えつつ丁寧に答えてくださった。
ヒアリングには富里の農家で作るネットワーク・TNネットワークのお二人も来てくださった。若手農家だとは聞いていたけれど、私より若いのにはショックを受けた。職業人として、地域の活性化や地域ブランドの向上に努めたいと思っている若者がいると知って身が引き締まる思いがした。それに、私より若いのに一児の父!自分の職業や地域に誇りを持つお父さんがいる、そんな富里がうらやましい。
産業まつりでも、私はさまざまな人々に出会った。
富里のにんじんがたくさん入った、「にんじん焼きそば」を作っていた富里農業士会の屋台のおじさん。にんじん焼きそばを買った私に、農業士の仕事や農業士会についてわかりやすく教えてくださった。
富里で採れた野菜を格安で売っていたブースには、野菜の生産者であるおじさんやおばさんが売り子をしていた。このブースでのやり取りは強く印象に残っている。
ブースでは、はやとうり、かぶ、ゆず、白菜などが売られていた。私はかぶを1袋買った。東京のスーパーでは決して買えないような、立派な葉がついた、大きなかぶ。それが4つ入って100円!
「このかぶって、どうしたら一番美味しく食べられますか?」と近くの売り子のおばさんに尋ねると、「あー、かぶは○○さん!」とかぶの生産者の方を連れてくださった。生産者の方は、「味噌汁か、漬物だね」とコメントし、売り子のおばさんと「そうだね~」と顔を見合わせてにこにこ笑っていた(じっさい、味噌汁を作ったら非常に美味しかった)。
その後、生産者の方と売り子の方の2人としばらく話をした。私たちが東京から来たことを告げると「やっぱりね~」と笑顔。売り子の方は「富里は見るところないよ、産業まつりくらいかな」と少しはにかみながら話していた。そして、「わざわざ来たんだから」と焼き芋を分けてくださった。焼きたての焼き芋はアツアツで、なかなか食べることができない。そんな私たちを見かねて、「新鮮だし、よ~く洗ったから皮まで食べれるよ」。アドバイス通り、皮ごと食べてみたら意外に美味しかった。甘さと皮のこんがりした味が相まってスイートポテトのような味。「美味しいです!」と伝えるとにっこり笑ってくれた。生産者の前で野菜を食べる機会はなかなかないし、感謝を伝えられる機会もなかなかない。なんだか貴重な体験ができた気がする。
私が短い富里滞在の中出会った、富里のひとびと。富里市役所の林田さん、池田さん、三浦さん。富里小学校の松岡先生。TNネットワークの農家の方たち。産業まつりに出店していた富里の農家や商店の人々。皆、「富里には見るところがないんだ」「今の富里はだめだ」と言いつつも心の底では富里への愛、自分の職業への熱意で満ちている。この住民の誇りこそが、「富里の見どころ」なのではないか、と私は思った。富里市Localwikiは、これから「富里の見どころ」、人々の魅力を可視化する装置として機能してほしい。