http://www.sonnysstable-jp.com/ask.html
行ったその日から野外騎乗
初めての人でも様子みて大丈夫なら、すぐに外を歩かせてくれる。馬の背中で旅だ。森林の中、畑の中。森の風景に見晴らしの広いところ、駒ヶ岳。数キロに渡る旅は本当に楽しい。
「サニー、この林道何キロあるの?全部枝払ってるの?」
「4キロかなあ、あれ暴露た?がははは」
普通、林道を馬で行くと、時々自分の顔や胸の高さに道脇の木の枝が張り出し、潜りながら歩くものだ。サニーは黙って僕らの行く前日に全て歩いて人の乗った馬の高さに合わせて枝を払っていたというのだ。「いや、僕は当たり前のことしてるだけだから、参ったなあ、普段は説明しないんだよ」という。黙ってするもてなしのようだ。よく見ると馬の足元、砂利道もレーキがかかっている。もう質問はやめたけど、安全への配慮がすごい。馬は素人の曖昧な操作もちゃんと読んで行きたいほうに行ってくれる。人を乗せることを楽しむように調教している。
長め直線の道に出たときサニーがいう。
「走ってみましょうか」
「でも、彼女、初めて、、、」
「大丈夫ちゃんと乗られています。ちょっと駆け足ね」
これには驚いた。ツレも怖がる様子もなく、自然にパカラン、パカランと駆け足をカッコよくこなしていた。これは高揚する。
疲れた頃に、目の前が開け、駒ヶ岳が美しく見える眺めのいいところに出た。テーブルと椅子が据えられて、コーヒーと手作りのケーキが用意されていた。奥さんが先回りしていた。これもやられたなあ。
馬は僕らが見えなくなってもまだ見えるらしい。とっぷり日が暮れるまで旅をして厩舎にだどり着くと「泊まって行け」と、小屋に案内された。まあ、牛飼いの小屋だ。「カウボーイは、これを飲め」と、ジャックダニエルが差し入れられ「裸になっても帽子を脱ぐな」と言われて、言われた通り、顔に帽子をのせて寝た。夜中に外に出ると、星が綺麗だった。若い頃に読んだ南部の長編小説に、酔っ払っても馬が家まで主人を連れて帰るシーンがあったのを思いだした。すっかり物語の主人公になって過ごしていた。
北海道で馬に乗りたいという友人は多い。僕は必ず、森のサニーズステーブルに連れて行く。なぜか、今まで乗った中で、一番安全で幸せで楽しいからだ。
円馬場を見て欲しい。円形の馬場のなかで、馬と出会い、体を慣らす。「馬術」は覚えなくていい。行ったその日に、簡単なレクチャーで大抵の人が馬を操作し、行きたいところに行き、止まりたいところで止まることができるようになる。馬は人を馬鹿にしないように愛情をかけて育ててある。この円馬場の柵の高さがちゃんとしている。馬より低い柵は、落馬したときに脇腹や首を打ち、大怪我になることがある。サニーで落馬を聞いたことはない。しかし、この僕らが馬に乗った視線より高い柵は、万が一のときも、柵で体を打ち付けることはなく、柵の中のやわらかい土に落ちる寸法だ。もちろん、杭は外側。膝をぶつけることもない。こんな行き届いた厩舎、実はあるようでないんだ。
厩舎の馬糞は常に綺麗に片付けられている。臭わない。世話の手間と馬の健康のなせる技だ。
年がら年中やっている。大沼や森に泊まってもいいし、テントや小屋を使ってもいい。
サニーは若いころ、カウボーイになりたくて、テキサスに渡った。本当に牧場で牛を追っていた。そのとき、サニーと名付けられたという。カウボーイは基本、投げ縄。両手を作業に使うので、馬は足と声だけで動かせる。前後左右、頼むと本当に数センチ単位で馬を動かして、投げ縄も見せてくれる。まあ、それは到底真似ができない。一方、ここの馬に乗ると、乗馬の腕前が上がったような気分になる。
なぜ、森を選んだのか。それは馬にとって暑すぎず、寒すぎず最高の環境だから。そして、駒ヶ岳の火山灰の大地は馬の足にもかなりいいので故障が出ないのだそうだ。寒いけど、雪景色の中の旅も素晴らしいという。