青森へ向かう道のりは、悪天候のため、油紙の雨具もワラでつくった蓑もあまり役にたたず、着ている服は全部濡れていた。それにも関わらず、イザベラは、青森湾の灰色の海をみて、故郷スコットランドに似た雰囲気を喜ぶ。

 函館に向かう船は、天候が悪いというのに夕方出港するという。それでも彼女は濡れた服のまま喜び勇んで70トンの外輪船に乗った。船は雨のための設備は備えていなかった。日本人は穴蔵のようなところに入れられたが、服がびしょ濡れの外国婦人は特別扱いで、ただ1つある船室に船長に毛布にくるんでもらったので、助かったと正直に述べている。

 相変わらずの悪天候のなか、船はヨットのように悪天候には不適当だと不満を述べている。それでも英国人の船長と同じような冷静さをみせる日本人の船長のふるまいを見て、不安そうな記述は見当たらない。

 夜中に14時間をかけて60マイル(96キロメートル)先の函館に着いた。まさかそのような悪天候に船が来るとは思っていなかったのか、迎えに来てくれる予定の人も来ていなかった。

 ジブラルタルのような岩だらけの岬や、冷血のように見える灰色の町など北国らしい風景を見て、イザベラは喜んだ。子供の頃から馴染んでいる故郷の空気によほど似ていたのだろう。ずぶ濡れの服も、ドロ沼のような道も忘れ去ったようだ。

 函館の教会伝道館で、あらゆる困難に打ち勝ったという勝利感に浸りながら、本物のベッドに横になることができる喜びを妹に向けて手紙にしたためている。

 

(CC BY-SA 2016. 1.17 Yasushi Honda)

 

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