修行はしていないんですよ。でも何度もイタリアに行っています

驚いたのはニョッキだった。

ニョッキというと、白玉のような、かなり強めの弾力を想像していたのだが、全く違った。口に入れるとと、ホロッとほどけ、ジャガイモの旨味が広がる。弾力が無いのではない。でも、本当に、自然に、ホロッとなる。

「修行はしていないんですよ。全部独学です。でも何度もイタリアに行っています。このニョッキも、イタリアで出会って、味わってもらいたくて、何とか作ってみようと思ったものです。イタリアは、やっぱりマンマ(母)の味。家庭料理なんですよね」

シェフであるマスターの奥様は言う。独学でこれを再現するなんて。相当に考えて、試行錯誤されたに違いない。作り込まれ方は、家庭料理の域を超えているが、素材を活かし、お客様のためを思って作る料理は、母親の料理なのかもしれない。

お店の名前はカンティーナスズキ(Cantina Suzuki)鈴木さんのワイナリーという意味だ。
 

案内してくれた友人が、こちらには、私のお気に入りの「宝水ワイナリー」のシャルドネがあると言う。

岩見沢のワインを、同じ北海道の空気で頂く。気のせいか、香りも旨味も、一段と増して感じられた。

最初に頂いたのは、前菜の盛り合わせ。

マッシュルームや椎茸、チーズはどれも道産。ワインとのマリアージュ。

「北海道の食材だけで、こんなことができるとは」

フランスやイタリアに詳しいわけではないけれど、本場のテロワールを意識した料理に全く負けていないと思う。5月の北海道と言えばアスパラ。そして、丁寧に熟成されたイベリコ豚の生ハムと続く。塩加減や味付けが絶妙で「良い土、良い飼料で育ったんだな」と素材の甘さを味わわせていただいた。

 

5月の札幌の空気はたまらない

5月の札幌。夏至が近づき、太陽は高い。陽射しは夏の強さを帯びてきている。空気は冬が残っていて乾いてまだ冷たい。暑くて寒い。東京在住の身からすると、これがたまらない。5月には必ず札幌に来たくなる。

新千歳からの車窓で眺めた森や、大通公園や街路の樹々は、何と言うか、丸い。色は淡いのだけれど、新しい力を持っている。高原のような新緑。環状線になった市電は、近代的だけど、優しいデザイン。なんだかヨーロッパのよう。

雨が続いてやっと晴れた金曜日の午後。気のせいか人通りも多い。西4丁目。大通公園から三越とパルコを抜けて、左手に曲がった先に「Cantina Suzuki」はあった。階段を降りると、少し縦長のこじんまりとしたお店。迎えてくれたのは、朗らかなマスターの笑顔。地下なのに、しっかりと外と同じ空気がある。換気にすごく気を遣い、そして珪藻土で塗った壁がちゃんと呼吸をしているのかもしれない。

 

室内でも札幌の空気。これまた、たまらない。

最初に「飛行機があるので、残念ながら20:00までしか居られないんですよ」と伝えていたら、きっちりと20:00に会計が終わるように、サーブして頂いた。旅先だと時間を気にして、料理を味わえないことがある。時間を気にしないで良い安心感。まるで家のようだった。札幌の空気の中、子どもが親に頼るよう、何もかもをお店にお任せして、くつろいだ時間だった。

(2016.5.16 森崎千雅)

 

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