東日本大震災被災地自治体 ICT 担当連絡会の事務局からのメッセージ

仙台市情報政策課長の今井建彦氏は、「東日本大震災被災地自治体 ICT 担当連絡会(ISN)」の立ち上げと運営に関わり、事務局を担当している。ISNは、被災地支援や災害復旧のために自治体のICT担当職員がお互いに情報共有や連携を行うためのネットワークであり、2011年5月に設立され、岩手、宮城、福島県を中心に43の自治体が参加している。

 

2011年11月28日、仙台市においてISNによる公開セミナーが開催され、多くの被災自治体のICT担当者による報告がなされた。その発表資料は、ホームページで詳細に公開されているだけでなく、英語版も掲載されている。いつどこで大地震が起きてもおかしくない日本の自治体にとって、おおいに参考になる資料であると同時に、世界中で参照すべき貴重な資料と言えよう。今井氏は、仙台市の情報政策という本務に注力しながら、このセミナーの実現を含め、他の地域との連携のまとめ役として活躍している。

 

東日本大震災によって仙台市は、大きな揺れと共に、沿岸部に広範囲で津波の被害を受けた。宅地での地滑りも深刻であった。公共施設も被害を受け、下水処理施設や都市ガス精製工場が破壊された。校舎が使えなくなった小中学校も10校を超える。仙台市役所内は、命からがら自衛隊のヘリで救出された職員ですら、走り回って忙しく対応をする職員と交差して、とても家に帰れるような状態ではなかった。なによりも救急・救命。そして必要な情報収集と連絡、避難所開設と物資配給などに奔走した。仙台市の死者・行方不明者は900名、全壊・半壊家屋は13万棟を上回り、7月末に避難所を閉鎖するまでの避難者数は10万人を超えた。

 

市の情報システムは、庁舎内で運用されており、地震による直接的な被害は無かった。しかし停電したため、運用を停止、3月13日に電気が回復してから運用を再開した。電気が回復するまでの間、防災計画などの主要な情報がサーバ内にあるため、取り出せない。後のアンケート調査で半数の職員がネットワークを使えなくて困っていたことがわかる。やはりICTが使えないと救助や復旧作業が大変非効率になる。

 

ICTの力は市民向けの情報提供でも威力を発揮した。まず市のホームページへのアクセスは3月と4月で通常の7倍に増えた。そして、ライフラインの復旧状況などを市民にお知らせするメール配信サービスも登録アドレス数が5倍に急増した。さらに罹災証明の発行など、震災時に急増するリクエストに対応するためにもICTの力は欠かせない。

 

今井氏は仙台市での経験に加えて、ISNの活動を通じて得られたさまざまなケースについての知識を元に、被災時に求められる自治体ICT対応についての優れた考察をしている。その一つは、被災が深刻で自治体が行政機能を失ってしまうケースについてである。今井氏はそのような深刻な事態を想定して「あらかじめ訓練された要員と支援業務に必要な情報システムを準備しておき、被災地に投入すべき」という。また、電源や通信網を長期間喪失した地域が多数発生したことに着目し「震災直後の通信が錯綜する時は特定周波数を確保し、その周波数により移動基地局を経由し、音声やデータ通信が行われることが必要」という。さらに、罹災証明発行などのマニュアル化しやすい業務について「復興業務支援システムのクラウド化(SaaS化)」が必要であるという。いずれも、各自治体で用意するよりも国として用意した方が効率的であり、被災時の対応力を発揮できるだろうと主張する。

 

・宮城県仙台市

http://www.city.sendai.jp/

・公開セミナー「東日本大震災と自治体ICT」のホームページ(今井氏のセミナーでの発表資料)

http://www.city.sendai.jp/shisei/1201134_1984.html

 

(取材日:2012年1月23日 ネットアクション事務局 新谷隆)

 

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