遠野市は、岩手県の沿岸部と内陸部を結ぶ道の中間にある

遠野市の半径50キロ以内には、沿岸部の釜石市、大槌町、大船渡市、陸前高田市、山田町、宮古市がある。車なら1時間、防災ヘリなら15分で行ける距離。盛岡市など内陸部の都市との中間地点にあり、歴史的に交通の要衝でもあった。この地理的条件と、津波などの災害時の後方支援の必要性を考え、遠野市では、沿岸部の諸都市や、自衛隊、警察、消防などの参加を得て合同訓練を行ってきた。

 

3.11 地震発生 遠野市は震度5強。市内全域で停電。激しい揺れにより市役所は全壊。倒壊の恐れから災害対策本部は屋外に設置。県警機動隊が遠野市に到着。

3.12 未明、大槌町から峠を越えた住民が市役所に辿り着く。自衛隊が遠野市に到着。早朝、市職員が大槌町へ物資輸送。安全が確認できた庁舎西館に本部を移設。

3.13 「東日本大震災後方支援活動本部」設置。釜石市に物資輸送開始。遠野テレビ(CATV)で災害関連の情報提供を開始。

3.14 大船渡市、陸前高田市に物資輸送開始。市内全域で電気復旧。

3.16 山田町に物資輸送開始

 

沿岸被災地後方支援室 次長の小向さん

地震によって市役所の建物に大きな被害が出たが、市内の住宅被害は半壊以上が4件だった。後方支援室次長の小向浩人さんによると、市内は全域で停電。テレビは使えない。沿岸部の津波はラジオで知った。翌日未明、大槌町から峠を越え、市の災害対策本部に駆け込んできた人から、沿岸部の津波による被害を知ったという。明け方、遠野市の職員が支援物資を持って大槌町に向かう。職員が撮ってきた写真をみて甚大な被災状況を知り、大槌町への後方支援が真っ先に始まった。
遠野市からまっすぐ東に向かうと釜石市がある。遠野市民にとって、釜石市に親戚がいないという人はいない程つながりが強い。大槌町同様、甚大な被害にあった釜石市への支援も翌日には始まった。
小向さんは、「遠野市は職員の顔が見える自治体」だという。 「震災後、市役所に直接の苦情はほとんど寄せられなかったが、多くの市民が我慢していたはず」という。
被災地に送る食料を確保するため、市の職員がバイパス沿いのある店に行った。停電で真っ暗な店の中、懐中電灯を当てながら、被災地支援のため食料を全て欲しいという職員に、店の社長は「お前か。もってけ」と応えたという。予算を示したわけでも、総額いくらなのかも分からない。互いの信頼で食料をまとめて売ってもらい、いち早く沿岸部に届けることができた。

「今は物資やケアが重要だが、数年経って仮設住宅を出る人が、スムーズに生活に戻れるようなバックアップをしたい」。復興には長い時間が必要だ。

 

沿岸被災地後方支援室 主事の刈谷さん

遠野市民はみな穏やかだと話すのは、後方支援室の刈谷俊介さん。地震で停電や断水が起きたが、津波に襲われた沿岸部はずっとひどい状況にある。それを思うと、遠野市民は自分達の不満を訴えることはできない。沿岸部の出身者もいれば、親戚が住んでいる人もいる。遠野市民にとって、沿岸部の窮状は他人事ではない。刈谷さん自身も大船渡の出身。町内会や商店街の顔役の手配で、毎週のように現地に手伝いにいったり、おにぎりを握り続けた人たちが大勢いる。</div>

津波で亡くなった釜石市のご遺体を、遠野市の火葬場が受け入れたが1日6体が限界だった。「遠野市だけでは手が足りない。県がイニシアチブをとって広域で連携できていれば」。遠野市は3万人に満たない市民が総力を挙げて支援活動を続けた。
後方支援をしていると、被災者のニーズが状況に応じて変わっていくことに気づくという。ニーズが変わると必要な物資も変わる。物資の調整を繰り返しているうちにタイミングがずれ、現場でミスマッチが起きる。支援物資がうまく回らない。そこで物資の渡し方を工夫した。物資を運動場に並べ、車のある方には自分で取りに来てもらうようにしたのだ。こうすれば自分が必要な物を受け取ることができる。現場では、臨機応変が欠かせない。

「記憶を風化させないためにはどうすればいいか。子供達にどう伝えていくか、後世にどう残すか」。刈谷さんの想いは後方支援室共通の想いだ。

 

沿岸被災地後方支援室 主事の菊池さん

「残念ながら、岩手県からの物資の受け渡しには柔軟性が欠けていた」。

そう話すのは後方支援室の菊池永人さん。

「現地からの要請がなければ支援物資を出せない」という対応が続いた。現地は被災して大変な状況になっている。そんなとき、形式どおりに現地からニーズをあげられるわけがない。これは、支援室の方に共通した意見のようだ。
菊池さんは、遠野市は市職員と住民の距離が近い街だという。市職員は地域の行事に一市民として積極的に参加しなさいというのが市長の考えだ。市長の考えが遠野市職員にはきちんと伝わっている。市内のコミュニティ消防センターや自治会館を、地元の人にお願いしてボランティア団体などの拠点として使わせてもらっている。地元の人からは差し入れをいただいたりもした。市職員と住民の距離が近いのが遠野だ。

 

 

沿岸被災地後方支援室 室長の菊池さん

最後に、後方支援室を代表して室長の菊池保夫さんに語っていただいた。

「被災地の復興・自立のためには、働く場をいかに作っていくかが重要で、将来に希望を持つには職があることが大切。まちづくりの専門家などの力を借りて計画をつくり、国や県の補助を使いながら復興を進めていきたい」。

「これからも、岩手県産のものをちょっと気にかけて、一個でも買い物かごにいれてもらえればうれしい。岩手のことをこれからも忘れないでいて欲しい」。

 

 

 

(取材日:2011年12月8日 ネットアクション事務局 雨宮僚)

 

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