砂浜に打ち上げられた流木は絶好の遊び場だ。上っり下りたりしてる小さな羽。
「またここに来ていたのか。もう帰る時間だよ。」「でもお父さん、僕もう少し遊びたいよ。一緒に遊んでよ。」「仕方がないな。じゃあ、お話をひとつ聞かせてあげようか。」「わぁーい。今日はどんなお話ししてくれるの?」「そうだな、子供の頃よく一緒に遊んだ男の子が聞かせてくれたこと。あの日もまるで今日みたいに夕陽が大きくて真っ赤だったけなぁ.......。」
白い波がしらに手をかざして
「もう少し一緒に遊ぼうよ。」今、お前がお父さんに言ったみたいに男の子に言ったらね。
「そうだね、もっと遊んでいたいけど、もう空が真っ赤になったでしょ。どんどん暗くなってお陽さまの代わりにお月様が現れるんだ。」って男の子は教えてくれた。
お父さんは、お月様が出る前にいつもお家に帰ってたから、お月様がどうなるのか知らなかった。朝には見えなくなってるからね。だから男の子にまた聞いたんだよ。
「お月様はどうなるの?」ってね。
「いいかい、陽が昇るとお月様は ゛ストン„ と落ちるのさ。もうひとついうと、夕方海に陽が沈むとき ゛ジュッ„ って音がするのさ。ついでに蒸気も上がる。もしかしたら、山かげに陽が沈むときは ゛ゴツン„ と音がしてるかもね。」
男の子が笑って見上げるから、お父さんはもっともっと話が聞きたくなって、男の子の横に並んで座った.......。
「クジラ半島はね、誰かが呪縛を解いてあげると嬉しそうに泳いでいくよ。」
「ラッパ森はね、クマがラッパを吹いたのさ…….。はぐれた小熊のためにね。霧で迷ったんだよ…….。」
男の子が聞かせてくれる話は、どれもこれもとっても面白かった。だから僕らは毎日遊びの最後には必ず並んでお話をした。
「あのね、谷地には ゛呑べい„ が住んでいるの。流れてくるすべてのものを呑み込み、ときには溢れかえるのをおさえ、汚れたものを浄化して小さな生物の楽園を作っている。遊んでいる子供が物を落とすと、その物の大切さを心に棲まわせ、谷地に悪さをすると ゴム短靴を呑み込んで泥だらけにするんだ。ときにただの草藪と見せかけて悪童の踏み込むのを待っているのさ。」
「へぇ~。ヤチって凄いんだね。青い海とは違って茶色くて怖いから近くまで行ったことなかったんだよ。」
「そう、君は谷地をあまり知らなかったんだね。谷地には人助けの主もいるのさ。誰かが埋まると、それを助けようとするように仲間のこころに働きかけるの。それで仲間意識が強まるの。それを見捨てるようなヤツには、心に入り込んで、次に全をほどこすまで ゛後悔の念を抱かせる„ のさ。だから ゛ヤチ„ で遊んだ子供たちは仲がいいのさ。」
男の子はいつだかちょぴり遠くを見ながらこんな話も聞かせてくれた....。
「イタンキ浜では、子供が波にさらわれることが多かった….。あれはね、波の中に仲間を感じてついて行ったんだよ。その海の中が楽しくて帰って来たくなかったんだよ。いまも元気に海を楽しんでるんだよ。遠くに行くときはイルカに乗ってね。そんでもって裸じゃはずかしいから昆布で身体を隠したんだよ。陸(おか)で悲しむ人たちに自分たちは楽しくやってるよ。心配してくれてる感謝をこめて昆布をおいしくしてくれているんだ。でも人恋しいときは、波に乗って………。砂浜に寄せてくる白い波がしらは、子供たちが手をかざしているんだよ。」
そして男の子は言ったんだ。
「砂浜に行ったら、白い波がしらに手をひたしてみようよ……..。」って。
「お父さん、男の子は今どうしてるの?」小さな羽は心配そうにたずねた。
「男の子はもういない....。居るのはお前にパンをくれる優しいお兄さんだ。」そう言ってお父さんはにっこり笑った。僕も一緒に笑った。
「あっいけない、そろそろ ゛ゴツン„ と陽が沈むな。さぁ、お家に帰ろう。」お兄さんと一緒に大きく育った羽は、今日も白い波かしらにサラッと触れて上昇する。小さな羽も真似をする。
「お前にも男の子の友達が出来たらいいな。」親子カモメの姿がだんだんと小さくなって行く。
「月夜に 原案 K氏 2016/11/8文編集 菅原由美 」