しごとをつくる、あしたをつくる
キャッシュ・フォー・ワーク
キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)の日本語訳は「労働対価による支援」。被災した人が自らがれきの撤去や清掃、炊き出し、地域ビジネスの設立など復旧・復興のために働き、対価が支払われることで復興を促す支援プログラムである。震災後、永松伸吾さんはCFW-Japan(キャッシュ・フォー・ ワークジャパン)を設立。2011年12月には一般社団法人化し、日本での本格導入に取り組んでいる。
もともとの専門は「災害からの経済復興」。阪神淡路大震災の際は被災実態を見ながら「どうやったら地域経済をうまく復興させられるか」が博士論文のテーマだった。
ハリケーン・カトリーナの際にはアメリカのFEMA(米連邦緊急事態管理庁)の支援の仕組みを学んだ。FEMAは被災地に被災者支援のための相談 コールセンターを設置、被災者をオペレーターとして雇用した。彼らはワードやエクセル等の職業訓練を受け、契約が切れた3か月後、次の仕事を探すのに役 立った。
2004年の新潟の中越地震の際には大変興味深い試みがあった
被災した飲食店がお弁当をつくり、避難所で生活する人たちに提供するというしくみで ある。被災者は比較的できたての弁当が食べられると同時にそれが地元の飲食店の仕事になった。建物が被災し、仕事がすべてキャンセルになって絶望の淵にある人たちにとって、仕事ができる喜びと明日への希望につながった。
震災直後、3月13日に釜石を訪れた。今回の震災は「罹災証明の発行だけでもものすごいことになる、被災自治体があれだけ傷ついていることを考えたら、被災者ができる仕事はたくさんあるはず」。被災地からの帰り、同僚が運転する車の助手席でそんなことを思いながら自分のブログに「キャッシュ・ フォー・ワークが必要だ」と書いた。これに対してすごい反響があった。著名人を含め今まで全くつき合いのなかった人たちが賛同してくれたり、ツイッターで 拡散してくれた。民主党の厚生労働委員にレクチャーも行った。その後4月5日、政府は被災地の就労対策、雇用対策を盛り込んだ「日本はひとつ」しごとプロジェクトを発表する。
災害というのはその社会が持っているトレンドを加速させる傾向がある。今の都市はさまざまな地域との産業連関の中で存在すると同時に、都市間競争も ある。経済活動がいったん停まると地域が持つマーケットが失われたり、他の地域の産業にとってかわられたりする。速やかに活動を再開する必要がある。しかし、被災地は傷ついている。インフラの復旧にしても建物の再建にしても、よその手を借りざるを得ない。そうすると、せっかくの復興需要がよその地域に流れてしまう。ここに大きなジレンマがある。
被災した地域経済が何もできないというのは思い込みだ。復興需要を効かせ、できる限り地元に仕事を起こしていく。これが経済復興の起爆剤になる。被災者のなかには仕事をやりたいと思っている人がいる。スピードを損なわずに地元の復興需要につなげられるのでは・・。
今やっている調査は、どこでどんな雇用創出が行われているかという事例をとにかく集めるということ。具体的に雇用創出の事例をピックアップして、 データとしてまとめていく。現地でだれがどういう財源を使ってどういう雇用創出の仕組みをつくっているのか。これを聞き取りストックしていく。
そのなかでわかってきたことがある。キャッシュ・フォー・ワークには2つある。一つは「つなぐCFW」、もう一つは「みたすCFW」。前者は通常の労働市場で働いていた人たちが、経済が復興するまでの雇用をつなぐためのCFW。後者は通常の労働市場では評価されない労働に対し、雇用を創出する CFW。例えば女性や高齢者など、もともと労働市場の中で十分に働けなかった人たちの就労ニーズに応えるというもの。前者の場合、元の仕事に復帰すること が最も重要だが、後者は職業訓練なども重要だ。年金を受給している高齢者の場合には、就労動機はいきがいで収入はあまり必要としないかもしれない。短期雇用が長期雇用よりも劣るということは決してない。多様な雇用の機会が確保されなければならない。
現在、永松さんが考えていることは基金の創設だ。CFWの活動に賛同してくれる人たちに寄附を募り、もし、東南海・南海地震、首都直下型地震が起 こった場合には、当日あるいは翌日に現地に行き、その基金を財源として被災者のために必要な雇用を一気につくってしまうというもの。キャッシュ・フォー・ ワークを速やかに実現できるような体制をつくっておくこと。それが最大のミッションだと思っている。
永松伸吾さん関連資料は、以下のとおりです。
・永松伸吾さんのホームページ
http://www.disasterpolicy.com/index.html
・一般社団法人CFW-Japan(キャッシュフォーワークジャパン)のホームページ
・「東日本大震災からの復興に向けたキャッシュ・フォー・ワークの提案」(2011.3.25)
http://www.disasterpolicy.com/CFW_proposal_0325.pdf
<参考文献>
・永松伸吾著「キャッシュ・フォー・ワーク-震災復興の新しいしくみ」岩波ブックレット
・永松伸吾著「地震に負けるな地域経済-小千谷・柏崎発「弁当プロジェクト」のススメ」
・独立行政法人 防災科学技術研究所 災害リスクガバナンス研究プロジェクト
(取材日:2012年1月18日 ネットアクション事務局 小豆川裕子)
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