活動できる環境があったからこそ
活動拠点があり、役割分担ができていたからより有益な活動ができた
都道府県や政令市は被災地での健康チェックや避難所の衛生対策などを行うため、国の調整に基づいて被災自治体に保健師を派遣している。岡山県では東日本大震災での支援活動のため保健師チームを編成し、岩手県大船渡市を中心に派遣している。第1陣の派遣は3月18日。以後、1週間の交代を基本として、派遣による支援活動が終了した8月31日までに、計41陣、延べ170人が活動している。
保健師チーム派遣の調整などを行った保健福祉課の亀山明高さん、保健師として被災地で支援活動を行った保健福祉課の大野鶴代さんと備前保健所保健課の美甘(みかも)妙子さんにお話しを聞いた。
保健福祉関係の経験が長いという亀山さんだが、3月の震災時の所属は住宅課だった。住宅課では公営住宅などを中心に被災地の住民の方々の受入などの対応をしていた。4月に保健福祉課に異動となり、前任者から、当初は派遣者の交通手段と宿泊場所の確保が課題になったと聞いた。「阪神淡路大震災など過去の地震でも被災地へ保健師チームを派遣した例があり、震災後、内陸部に津波が押し寄せる映像を見て、保健師チームの支援が必要になると認識し、交通手段、宿泊場所や当面の食料を直ぐに準備したそうです」。担当後は、送り出す側として保健師チームが安心して活動できる環境を整えることに努め、若手保健師は熟達した保健師と組み合わせるなど派遣者の構成にも配慮したという。
大野さんと美甘さんは、保健師を目指した経緯は違うものの、病気の予防などに携わって広く地域の人と関わりたいという想いを胸に保健師としての門をくぐった。
県と市町村の保健師がチームを組んで一緒に被災地で支援活動を行ったのは今回が初めてだという。 共同での支援活動を経たからこそ 「災害時の活動は、平時の保健師活動の凝縮である」と実感した。「県内の若手保健師に、日常の保健師活動をしっかりとやっていれば、非常時でも対応ができ るということを伝えたい。そして、非常時だからといって特別なことをする訳ではない。だから心配せずに皆で行って支援活動しましょう」という。
今回の支援活動を通じて、保健師は自分自身が健康であることが大前提だということも再認識したそうだ。「若手保健師と一緒に行動しました。遠野から大船渡市に向かう車中、あまりの光景に後部座席で泣いているのがわかりました。抱え込むと本来の役目が果たせなくなる。自分も上手に受け止められるほうではないのですが、同行者は1週間頑張ってくれた。保健師として成長してくれたと思います」。保健師として相手の気持ちになるという感性は必要だが、自分自身を上手くコントロールすることが最も大切なのだと。
大船渡市は市役所や保健所などの行政機能が維持されていたことで支援活動をスムーズに行えたという。「大船渡市に支援に入っている他県の方や医療関係者などと一緒にオリエンテーションや毎日のミーティングを行っていました。混乱の中でも集まって話ができる場があったから、各々が持つ情報や課題を共有でき、連携がスムーズになって業務が改善されていきました」。活動拠点が機能していたことで各々の専門性を踏まえた情報交換ができたことは、支援活動を行う上での大きな糧となった。
「自分たちは保健師として当たり前のことをしただけです。それができたのは一緒に行ってくれた事務職の方達がいたからこそです。活動に必要な準備だけではなく、その時々の状況に対応してくれた。避難所では子ども達の面倒をみたり、トイレが外から見えるからといって目隠しを設置するなど細かな部分にまで配慮してくれました」
地域に密着して活躍する保健師が自分の目や耳で拾う情報は、地域の方々の健康の基盤を支えている大切な仕事だ。病気の予防だけではなくて、生活者としての視点から目に見えない健康課題などの情報を集めて医者を始めとした次の役割を担う人への橋渡しをする。その活動は時として社会の影に潜んでいた大きな問題を明るみにだすことさえある。
保健師チームとしての支援活動を終え、通常の仕事に追われる保健福祉課に、11月10日、岡山県が担当していた避難所の一つであった大船渡中学校の生徒から「メッセージ集」が届いた。「For~今私たちができること~」をスローガンに大船渡の復興を支援した人々への感謝の気持ちを少しでも形に表したいということで送られたものだ。その中には多くの『感謝の気持ち』と『大船渡への愛情』が込められている。
「写真の子ども達は本当にいい笑顔をしていて、震災前と同じ大船渡を取り戻したいという気持ちが伝わってくるんです。支援活動を通じて勇気をもらったのは自分たちかもしれません」
大船渡中学校の生徒さんからのメッセージ集などは、以下に公開されています。
「大船渡中学校3年生のみなさんから手紙や枝豆等が届きました」
(取材日:2011年12月27日 ネットアクション事務局 山形信介)
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