仙台と東京を結ぶ光ファイバーの大動脈の復旧工事

 

NTTコミュニケーションズ株式会社のサービス基盤部基盤設備部門で日本の通信インフラの骨格の部分を保守する春木博志氏と佐野勝彦氏は、2011年3月11日の東日本大震災当日は、東京都の大手町にある日本最大の交換局の機械室にいた。作業をしていたら突然の大きな揺れに見舞われ、エレベータが止まってしまった。慌ててワンセグでテレビ放送を見て大変な事態だとわかり、日比谷の事務所に戻った。

 

東京と仙台を結ぶ主要な光ファイバー網が3系統ある。それらのうち太平洋ルートと東北道ルートの2系統で断線アラームが出た。この系統は、自社だけでなく、日本の主要な通信キャリアが利用する幹線としての役割を担う重要な光ファイバー網だ。それが切れたとなると一大事である。重要な基幹ネットワークは、そもそも、災害に強い設計で頑丈に、かつ複数系統を用意していた。しかし、ここまで重要なラインが2系統とも切れるのはNTTグループとしては、公社時代から一度も経験したことが無い。しかも、太平洋ルートは原発のそばで断線しているので、すぐには修復に行けない。

 

この光ファイバーの幹線ルートが復旧しないと、関東と東北の通信ネットワークが断絶したままになる。しかも、北海道も通信での孤立に見舞われる。いち早く回復しないと大変だ。春木氏も佐野氏も必死だった。

 

震災翌日の3月12日の朝、春木氏は有明のヘリポートを出発して仙台の南に位置する角田市の総合運動場に降り立つ。文字通り一番乗りだった。仙台に着いたのち、測定器を使い、ケーブルが切れている地点を探った。およその当たりをつけてその地点まで現地の関係社員と一緒にクルマで向かった。途中の道はガタガタで進路を阻む。やっと切れていそうな箇所を発見。その場でスグに復旧方法を決めた。

 

春木氏

 

次の日の朝一番からの作業の手配をしなくてはならない。本来ならば東京の本社から現地の会社に手配をかけるのだが、電話が繋がらないためにまったくもって無理だった。現地では明かりもない。春木氏はすがる思いで通信関係の会社を見つけ、アポ無しで訪問、頼み込んだ。北海道、東北、関東をつなぐ大動脈であると説明した。すると40名ほどの作業員を手配してくれると言う。しかも、その40名に電話で連絡ができるわけでもない。通信関係の会社の方々は、作業してもらう人のところにクルマで回って、集合場所などの指示をしてくれた。「ともかく嬉しかった」と春木氏はいう。

 

さっそく、翌日の13日に工事を実施することになる。掘削が必要で、県道を掘る許可をもらわなくてはならないので、白石市役所に走る。そこに県の土木の方が居たので事情を説明して許可をもらった。東北電力の電柱も利用させてもらうので、その許可ももらった。午前中は、必要な許可をもらう手続きに奔走した。そして12時から作業を開始、電柱を7本立てた。マンホールに入って行く。電柱に光ファイバーを繋ぐ。マンホールの中で余震がくる。電柱の上で余震の度にしがみつく。夕方からは明かりも無く、安全確認ができない状況での懸命な作業だった。そして23:25に作業は完了した。モーレツに迅速な1日の出来事だった。

 

佐野氏

 

復旧した場所の南側に「恐れ故障」がある。まだ断線していないが、そのリスクがあるというものだ。その福島市内の現場には、佐野氏が15日の朝に到着。確かにケーブルが切れてはいないが、道路が大きく崩壊して管路が露出してしまっている。マンホールも傾き、ケーブルがピーンと引っ張られ伸びきっていて、いわゆるテンションが高い状態。まずは、今のケーブルが切れた場合にスグに繋ぎ直すことができるように迂回ルートのケーブルを張った。ウォータージェット方式で土砂を流すことでテンションも解放された。(取材中に、なんと適切な判断なのだろうと感心した。)

 

作業してくれている人たちも被災者だった。自分の家が壊れている人も来てくれた。使命感をもって作業してくれた。さらに「今から思うと線量が高いはずなのにマスクもしてなかったが、その時は懸命だった」と佐野氏はいう。

 

並行して作業を指揮していた春木氏は、感動的な出来事に遭遇する。切れた光ファイバーの修復のために、1キロくらい離れた地点で2つのグループに分かれて作業をしていた。夜遅くまで作業をしていると、被災しているはずの近所の人がおにぎりと飲み物を差し入れてくれた。しかも2つの離れた地点で、それぞれ別の地元の方が示し合わせた訳でもないのに。

 

東北の方々の温かな気遣いに感激した。

 

(取材日:2012年3月13日 ネットアクション事務局 新谷隆)

 

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