氷感庫から始まる道

東北で「氷感庫」を取り扱っている株式会社ドリームゲートの澤田竜一さん。

 

氷感庫は、島根県大田市の株式会社フィールテクノロジーが開発したものだ。0℃以下の温度でも食材を凍らせずに長期鮮度保持ができるだけでなく、低温熟成によって旨み成分が増えるという。冷蔵庫内に電圧をかけることで水分子が振動し、分子同士がくっ付かなくなるので、氷結点を下回っても凍らない。水の蒸発が減る、マイナスイオンが出て酸化が遅くなる、オゾンが発生して雑菌が増えにくくなるという具合に、食材を保存する上で非常に良い環境が生まれるそうだ。

 

澤田さんの住む南相馬市には真野川漁港という小さな漁港がある。そこでは近海物をやっているが、仲買さんが東京で高く売るために全量持って行ってしまうため、地元で全く流通していない状況だという。当たり前に食べられたものが食べられなくなり、観光などで来た方におもてなしができない。
そこで、地元の観光協会が漁協に出資して仲買権をとった。南相馬へ来た方にどうやって地元の物を出すかを考えた結果、仲買権をとるしかないということになったからだ。

 

観光協会がせりに行くと、これまで安い価格で入れていた仲買さん達が高値で入れるようになり、漁協の人達が喜んだ。「いくらやってもお金にならない」と若い人達が漁業を辞めてしまう。そんな状況が、変わるかも知れない。

 

「地元で獲れたものを地元で流通させようと冷蔵・冷凍技術について調べていったときに、この氷感庫があった」。澤田さんは当時をそう振り返る。

 

すぐに社長が島根へ飛んだ。非常に優れた物だったので早速買うことになり、逆に先方から「関東・東北で導入事例に乏しいのでなんとかできないか」という話がきた。そこで澤田さんは、これまで経営してきた自分の会社をたたみ、東北で氷感庫を広めようと決意した。それが3年前のことだった。
「氷感庫を導入して保存状況が良くなっても、売り先がなければ収入につながらない。氷感庫を売るだけではなく、流通や加工といったところに関わることで販路を作りたい」。澤田さんは、気仙沼などで話をしていて、地元の漁協と同じようなことがどこでも起きているのだと知った。気仙沼の唐桑半島に住む漁師さんの獲った魚が、満足できるような値段で売れるようになればと考えた。

 

澤田さんは、氷感庫の知名度を上げたいと思ってはいるが、過剰に評判が上がってしまい、本当にこの人に売っても良いだろうかと思うような人からも問い合わせが来ることを心配する。
「氷感庫は万能ではない。氷感庫を使えば何でもうまく行くと思う人や機械ありきと思う人では絶対にうまくいかない。自分の獲った魚に自信を持っていて、それをどうやって活かすかを考えるような方や、現状の冷蔵・冷凍技術では保存に苦労している方に紹介していきたい」という。
唐桑の漁師さんがまさにそうだった。

 

「本気でやりたいと思っている人と一緒になってやっていきたい」。澤田さんは、これからについてそう語った。
 

氷感庫

 

 

 

氷感技術の解説(株式会社フィールテクノロジーのサイト)

http://www.feel-tech.jp/hyokan/index.html

 

(取材日:2012年2月15日 ネットアクション事務局 雨宮僚)

 

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