室蘭にもこんなところがあったんだ

 

「砂浜の輝く白と海の濃い青。淡い空の藍と岬の緑。素晴らしいコントラストと調和だった。入江になったところに親子のように大小二つ並んだ四角錐の巨岩は、この海岸を造った者がすばらしい彫刻と造園の才能があることを示していた」


「切 り立った断崖の続く起伏の大きい岬とその突端の岩は、伏せた怪獣が背伸びした小さなリスと鼻先で向き合う姿をしていた。もしその草に覆われた背に羊が点々と見えたら、全く英国の海岸風景だと清隆は思った。室蘭にもこんなところがあったんだ。彼は新しい発見に心を躍らせた」

p.68(第一部武林写真館)


三浦清宏が著した「海洞 アフンルパロ」に「室蘭にもこんなところがあったんだ」と自身を投影した主人公「大浦清隆」に語らせる場面がある。「浦」と「清」が自分の名前と共通しているところに主人公への愛着が現れているかもしれない。カリフォルニアに長くいた三浦は、清隆の従兄弟で写真家の孝男に室蘭を車で案内させ、清隆が室蘭の風景を観て感動させることで作家本人の発見を素直に表現し、室蘭を讃えた。

 

 

視野が開け、前方の人家の上に岩山の頭が見てきた

「車は町中を抜けて海に向かっていた。視野が開け、前方の人家の上に岩山の頭が見てきた。両側の窓が音もなく下りる。さすがドイツ製だと清隆は初めて見る電動式の窓に感心する。潮風が吹き込み、車内の空調に慣れてた清隆の顔は太陽のぬくもりと海の香りを存分に浴びた。車は右折し、渚へと続く草地の横をしばらく走って、岩山の手前で止まった」

p.67(第一部武林写真館)


「伏せた怪獣が背伸びした小さなリスと鼻先で向き合う姿」見るために、孝男のメルセデスに乗せられて、東町から、国道37号線をイタンキ岬に向けて走り、36号線を渡って、岬の手前を右折し、潮見公園の下まで向かった風景の描写だ。

 

孝男はイタンキ浜だと答えた

「石英質のきらきら光る白い砂浜が、前方に青く霞む岬の付け根から通り過ぎた岩場まで、緩いカーブを描いてい続いている」

「八月の末なので、泳いでいる者は少なく、天地もひろびろとしている」

「孝男が岬の方へ向かってどんどん歩いてゆくので、清隆も底の浅い革靴に砂が入るのを気にしながらついて行くと、かなり歩いた頃、今まで見えなかった崖際に大きな岩が二つ並んで立っているところに出た。岩と岩の間から海と岬が見える」

「ここはなんという場所かと清隆が訊くと、孝男はイタンキ浜だと答えた。全然記憶にない」

p.67(第一部武林写真館)


三浦は場所の季節を特定する描写を入れている。8月の末というと、海霧は落ち着いて抜けるような青空、引き潮のイタンキ浜ペシホッケからトッカリショに向かって歩いた時の風景を描写したのかもしれない。